きちんと噛むことはクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)を保つうえで欠かせません。歯科衛生士で健康咀嚼指導士の石野由美子先生は、正しい食べ方や噛み方が、歯並びに影響するだけでなく、表情筋を動かして豊かな表情を作るのにも効果的だと指摘します。

3歳から正しい咀嚼習慣を

歯で食べ物を噛む行為は、乳歯が生えそろう3歳頃から始まります。正しい食べ方とは、①唇を閉じ、②舌を動かして食べ物を口の奥に送り、③奥歯で噛んで飲み込むことです。子どもの頃から「口を閉じて食べなさい」としつけられたのは、エチケットの問題のみならず、正しく噛むためにも理にかなう教えだったのです。
ところが、最近は口を開けたまま食べる子も多いようです。これは、唇を閉じる力が弱く、口周りの筋肉も緩んでいて、前の方の歯で噛んでいるから。「唇を閉じてきちんと奥歯で噛むと、口周りの筋肉は大きく動きます。これが正しい咀嚼。舌、唇、頬をバランスよく使えることが大切です」と石野先生は話します。
幼児期に悪い食べ方を続けていると、口周りの筋肉が鍛えられません。すると、うまく噛めず、飲み込むまで時間がかかるばかりか、歯並びや噛み合せが悪くなる一因となります。噛むことは、あご骨の成長発育に影響するからです。また、噛み合せの悪さは、不明瞭な発音、舌足らずな喋り方を引き起こします。
「歯の位置は、歯列の内側(舌)と外側(唇・頬)の圧力のバランスで、決まるとされます。そのためには、6歳臼歯という最初の永久歯が生える6歳前後までに、正しい咀嚼習慣を身につけることが大事。この時期、正しい咀嚼で口周りの筋肉をバランスよく使えていれば、永久歯が正しく生える土台を整えられ、悪い歯並びの予防にもなるのです」

正しい咀嚼をエクササイズで

また、口周りの筋肉をきちんと動かすことは、整った歯並びを促すだけでなく、明るく豊かな表情を作ります。
顔の表情を作る「表情筋」は約30種あり、口周りにある口輪筋から放射状に伸びています。したがって、口輪筋を動かすと、顔全体の筋肉も動いて表情筋が鍛えられ、表情が豊かになるのです。また、意識して動かし続けることで、皮膚は柔らかくなり、顔のシワやたるみ、二重あごの防止に。アンチエイジング効果も期待できます。
石野先生が勧める、誰でもすぐに始められて正しい咀嚼が身につく「噛むエクササイズ」があります。①唇を閉じて口角を軽く上げ、奥歯でギュッと噛みます。その際、頬に手を当て、奥歯を噛んだときに持ち上がる筋肉(咬筋)が動くのを確認しましょう。②唇を閉じたまま、鼻の下を伸ばすように歯を開き、奥歯で10回繰り返し噛みます。③最後に、唾液を舌の中央に集め、ゴクンと飲み込みます。これを左右交互に5回繰り返します。
普段、何げなく食事をしていると思いますが、実は口が開いていたり、奥歯ではなく前方で噛んでいたり、または左右どちらかに偏っていたりする人は多い、と石野先生は言います。
「咀嚼は一生続くお口の運動です。普段から意識して正しく咀嚼することが大切だと思います」
正しい咀嚼で豊かな表情を手に入れて、楽しい人生を目指しましょう。

石野 由美子(いしの・ゆみこ)

二子玉川ガーデン矯正歯科
歯科衛生士
健康咀嚼指導士

歯科衛生士。日本咀嚼学会認定健康咀嚼指導士。日本成人矯正歯科学会認定矯正歯科衛生士。フェイスニング公認講師。日本口腔筋機能療法(MFT)学会役員。二子玉川ガーデン矯正歯科勤務。昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科に非常勤勤務し、口腔機能障害に対する口腔リハビリテーションを専門に行う。著書に『愛され笑顔をつくる口元エクササイズ「若返り! モデルスマイル塾」』(小学館)。



ロッテ 季刊広報誌「Shall we Lotte」より