お母さんたちに、子どもの歯についての悩みをたずねたところ、「虫歯」の項目を抜いて「歯並び」が最も多かったという報告があります。30年にわたり子どもたちの歯科診療を行ってきた倉治ななえ先生は、「昔に比べると歯並びの悪い子どもが増えている」と話します。今回は、今の子どもたちの歯並びが悪くなった原因や、歯並びを悪くしないための対策などについて、倉治先生に詳しいお話をうかがいました。

なぜ最近の子どもは歯並びが悪いのでしょうか?

最近の子どもたちの永久歯のサイズは、以前より大きくなっているといわれています。ところが、あごの骨は、進化の影響で小さくなる傾向にあります。つまり、狭いスペースに大きな歯が押し込められるので、デコボコとした歯並びになりやすいのです。こうした問題には、遺伝などの影響もありますが、それ以上にふだんから正しく咀嚼が行えているかどうかが大きくかかわっています。

しかし、現代人は食べものの嗜好が、歯ごたえのないものに変わってきており、昭和初期に比べると、食事にかける時間・咀嚼回数がおよそ半分に減少しているという研究報告もあります。たとえば、けがをして足をしばらく使わないと足の筋肉は細く弱々しくなってしまいます。それと同じように、あごも噛む回数が減ると、筋肉や骨が十分に成長できずに、結果的にあごの骨が小さくなってしまうのです。

あごの骨を成長させるにはどんな噛みかたをすればいいのでしょうか?

どんな食材でもよく噛んで食べれば、あごの骨が丈夫にかつ大きくなります。唇を閉じて、右の奥歯で10回、左の奥歯で10回、口の中の食べものを両側に振り分けて左右一緒に10回というように、左右バランスよく噛むといいでしょう。

また、噛むときの姿勢もとても重要です。頸椎をまっすぐにして、正しい姿勢で食べるよう心がけましょう。食べているときの子どもの足をブラブラさせないこともとても重要です。最近はイスに座って食べる家庭が多いので、心当たりのあるかたも多いかもしれません。

実は、足がついていない状態でごはんを食べると、おなかや背中に力が入らないので姿勢が悪くなり、噛む力が弱くなってしまうのです。食べるときには、子どもの足の高さに踏み台を置くか、足元の高さが調節可能な子ども用のイスを選ぶとよいでしょう。

意外に思われるかもしれませんが、食事中の雰囲気も噛むことに影響します。叱られながら食べていると、大人でもうつむいてしまいますよね。感情を素直に出す子どもたちならなおさらです。うなだれて猫背になると下あごが動かせず、うまく噛めません。

ですから、子どもには楽しい自慢話をさせるようにしましょう。「それはすごいね」など、子どもをほめながら楽しく食事すれば、子どもたちは自然と胸を張るので姿勢がよくなり、しっかり噛んで食べるようになります。

噛む力にも影響がある!食事中の姿勢
あごの骨が発達しすぎると、エラが張って顔が大きくなりませんか?

その心配はありません。厳密にいうと、歯の土台となっているのは歯槽骨という骨です。しっかり噛むと歯槽骨は発育しますが、下顎角、いわゆるエラが張ってくることはありません。むしろ、歯槽骨がきれいなU字形に発達すれば、口元は美しく見えるといわれています。一方、発育不足の歯槽骨はV字形で、U字形に比べて距離が短いために歯が並ぶスペースが不足して、結果的に歯が押し合ってデコボコの歯並びになってしまうのです。

永久歯が生えてからでも、よく噛んでいれば歯並びはよくなりますか?

過去に8歳の児童が、正しい姿勢で左右バランスよくしっかり噛むトレーニングを3ヵ月受けて、その後も経過観察を続けた結果、3~4年後には、下の前歯のでこぼこがまっすぐ並んだ例があります。これは、よく噛むことで、内傾傾斜した歯の軸が立ち上がり、歯列が広がった結果、でこぼこが治った例なのです。大人でも意識して正しく噛むことを続ければ、嚙み合わせが改善することは十分期待できるでしょう。正しい姿勢でしっかり噛むことで歯並びや嚙み合わせはよくなります。今からでも遅くはありません。よく噛んでおいしさを味わい、楽しく食事をとるようにしましょう。

倉治 ななえ(くらじ・ななえ)

歯学博士
日本歯科大学附属病院 臨床教授
クラジ歯科医院 院長

1979年日本歯科大学卒業後、同大学補綴学教室第2講座入局。83年クラジ歯科医院(院長)、89年テクノポートデンタルクリニックを開設し、90年から子育て歯科を開始した。2003年Dr. NANA予防歯科研究所設立。11年から4年間、日本歯科医師会常務理事を務め、16年には日本学校歯科医会副会長に就任。現在、日本フィンランドむし歯予防研究会副会長、大田区学校保健会副会長なども務める。