ウォーキングは老若男女を問わず、誰でも気軽に始められる運動です。継続すれば、さまざまな健康効果を得られることがわかっています。しかし、より効果的にしようと、早歩きするなど負荷を加えた結果、続けられないという人も多いようです。
そこで、注目されているのが、咀嚼と運動リズムの関係。ガムを噛みながら歩くと運動リズムが向上し、結果としてエネルギーの消費につながるそうです。そのメカニズムについて、咀嚼が身体機能に与える影響について研究されている早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・宮下政司先生に、お話をうかがいました。

噛むこと(咀嚼)と歩くこと(歩行)は、一見関係がないように思えるのですが、なぜエネルギー消費につながるのでしょうか?

咀嚼をしながら歩行すると、心拍数が上がるからです。心拍リズムは運動リズムと同期する(Cardiac-locomotor synchronization:CLS)という現象があり、心拍数が上がると運動リズムも向上します。つまり、歩くテンポがよくなるので無意識のうちに速度が上がっているんですね。同じ時間内では歩数が増えますから、必然的に歩く距離も長くなります。

私たちの実験では、20〜60代の男女46名に、ガムを噛みながら・噛まないでそれぞれ15分間歩いてもらいました。歩く速さについては特に指示せずに、各自のペース・歩き方で歩いてもらいました。この「各自のペース・歩き方」というのが実験のポイントです。「こう歩いてください」などの制約があると、緊張したりして心拍数に影響する可能性があるからです。

結果は、噛みながらの歩行において、被験者全員の心拍数が、噛まない場合よりも健全な範囲で増加していたのです。一般的な方の歩行中の心拍数は90〜100拍ですが、ガムを噛みながらだと2〜3%上がることがわかりました。また男女と年代で若干の差があるものの、全体の平均で歩行距離および歩行速度が増加していました(図1)。歩幅はほとんど変わらなかったのですが、速度が上がったことで仕事量が増えますから、エネルギー消費量も増大したといえます。顕著に結果として現れたのが、40〜60代の中高年男性の群です(図2)。これは、噛むことに使われる咬筋の強さが影響したと推測されます。

安静時にガムを噛むと交感神経活動が増大し、心拍数およびエネルギー消費量が増大することはすでに報告されていました。歩きながらガムを噛むことが身体機能を増加させて、エネルギー消費量を増加させるというのは、私たちの実験で初めて明らかになったことです。昨年、この研究をヨーロッパの肥満学会で発表した際には、多くのメディアが反応し、多数の記事が掲載されました。


Hamada Y, Yanaoka T, Kashiwabara K, Kurata K, Yamamoto R, Kanno S, Ando T, Miyashita M. The effects of gum chewing while walking on physical and physiological functions. Journal of Physical Therapy Science. 2018;30:625-629

噛みながらのほうがエネルギーの消費効率がよく、身体機能も高まると考えてよいのでしょうか?

そのように考えてよいと思います。心拍数の上昇だけが要因ではないと思いますが、身体機能が高まって、力強さを感じられたのではないでしょうか。

健康増進を目的に運動をする場合、なによりも重要なのが「継続」です。ガムを噛めば普段通り歩くお散歩程度でもより効率的なエネルギー消費につながります。気負わずにウォーキングができるなど、多くの方の健康増進のための情報発信ができれば思っています。これからも私たちは、噛みながら歩くことでエネルギー消費などの身体機能が具体的にどう変わるのか、より詳細な研究を続けていくつもりです。

宮下先生が行った実験の詳細はこちら:『「噛む」+「歩く」で健康増進』

宮下政司(みやした・まさし)先生

早稲田大学 スポーツ科学学術院 准教授

2006年、英国Loughborough大学博士課程修了、博士号を取得。2006年、筑波大学大学院人間総合科学研究科研究員。2009年、早稲田大学スポーツ科学学術院研究院助教。2012年、東京学芸大学芸術・スポーツ科学系 健康スポーツ科学講座准教授。2016年、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、現在に至る。