肥満は、糖尿病や高血圧などさまざまな生活習慣病のリスク因子になることから、いまや社会問題になっています。肥満の原因の一つとして以前からいわれていたのが、「早食い」です。これまで多くの調査で、肥満の人に早食いの傾向であることが明らかになっています。「肥満でなかった人も、早食いを続けると肥満になりやすい」ことを、3年間に及ぶ追跡調査で立証された、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森田学教授に、『早食い』と『肥満』の関係についてお話を伺いました。

早食いと肥満の関連を調べるための追跡調査とは、どのようなものだったのでしょうか?

「ゆっくりとよく噛んで食べることは、健康のためによい」といわれており、多くの研究で、「早食い」と「肥満」の強い関連性が明らかになってきています。しかし、それらはいずれも一時点における観察結果であることから、最近では同一対象者を一定期間、継続的に追跡する調査が必要とされていました。要は、肥満って、いきなりなるわけではありませんよね。最後にたどり着くのが「生活習慣病」と呼ばれているように、徐々に普段生活の中で脂肪等は蓄積されていきます。ですから長い時間をかけて、どう変化するのかを検証必要があるのです。

私たちは、2010年春の時点で〝肥満と判定されなかった〟岡山大学の新入生1,314人を対象に、3年後(2013年)にどう変化したのかを調査しました。肥満度の判定には、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出される体重・体格の指標である『BMI』(日本肥満学会では、BMIが25以上の場合が肥満と定められています。)を用いました。
また、2010年に、食べる速度の自己申告(早食いであるか/早食いでないか)と、「脂っこいものをよく食べる」「食事が不規則」「朝食を抜く」「腹いっぱいになるまで食べる」など12項目のライフスタイルについて尋ねました。そして3年後に、〝肥満になった〟か、あるいは〝肥満でない状態を維持しているか〟を調べました。今回の調査では、早食いであるか否かは自己申告ですが、以前の調査で自己申告と実際の食べる速さが相関していることを確認しています。

さて、その結果です。アンケートで「早食い」と回答していた学生は405名、「早食いではない」と回答した学生が909名でした。3年間でBMIが25以上になり「肥満」と判定された学生が38名(2.9%)いました。「早食いの群」と「早食いでない群」に分けて3年間で肥満になった割合を調べると、それぞれ6.2%、1.4%と、約4.4倍になりました。また、BMIが23以上の「肥満予備軍」になった学生72人でみても、早食いとの関係がみられました。「早食い」とよくいわれるのは、1回の食事を15分以内で済ませてしまうこと。なぜ、早食いで肥満になるのかを考えると、食べはじめてから脳が満腹と感じるまでには15~20分かかるとされており、早食いの人は必要以上に食べ過ぎてしまっている可能性があるからです。

さらに注目すべき点は、「早食い」で肥満になった比率は、「脂っこいものをよく食べる」や「腹いっぱいになるまで食べる」などの他の習慣で肥満になる比率より、飛び抜けて高かったことです。みなさん食べる物や量に気をとられがちですが、「早食い」による「肥満」のリスクの方が高いといえます。

早食いの者は早食いでない者と比べて肥満リスクが4.4倍も高い

肥満以外に、早食いによる健康リスクはありますか?

「早食い」を自覚する人は、そうでない人よりも一口あたりの食べる量が多く、噛む回数が少ない傾向のあることが、過去の研究で確認されています。成人女性ですと、おにぎりを食べる場合、10口程度が一般的とされています。極端に少ない場合は注意が必要です。

よく噛まないのは口を動かさないことですから、口周辺の筋肉が低下して口腔機能が虚弱化します(オーラルフレイル)。その結果、食べこぼしたり、会話がスムーズにできなくなったりするのです。また、噛む回数が少ないと、唾液の分泌量が減ります。唾液には殺菌・抗菌作用がありますから、唾液の分泌が少ないと、細菌やウイルスなどが侵入しやすくなります。そのほか唾液には、口の中の細菌の繁殖を抑えたり、再石灰化作用によって虫歯を防いだりする作用があります。なにより、唾液の分泌が少ないと、おいしく食べられません。唾液には、食べ物の中の味物質を溶かして、おいしさを引き出す作用があります。おいしいものを食べているのに「おいしい」と感じられないのは残念ですよね。

さらに「早食い」は、血糖値を上昇させたり、高血圧のリスクを高めたりすることがわかっています。そのほか「早食い」は、胃腸を働かす時間が短くなるため、エネルギーを消費せず、基礎代謝量が落ちるといわれています。基礎代謝量とは、安静状態でも呼吸、心拍、体温維持などに消費される、必要最小限のエネルギーのこと。基礎代謝量が落ちると、太りやすいのはもちろん、体温が下がりますし、血流も悪くなります。反対に、早食いをやめてゆっくり食べると、基礎代謝量が上がります。消化活動のためのエネルギーがたくさん必要になるので、代謝が上がり、肥満の抑制につながるのです。

ゆっくり食べる習慣を身につけるには、どうすればよいのでしょう。

肥満治療に関するガイドラインでは、「咀嚼法」が肥満治療における行動療法のひとつとして明記されていて、一口ごとに20〜30回以上噛むことが推奨されています。とはいえ、なかなか実行に移せない人が多いことでしょう。そのような人は、小さいスプーンで食べるとか、一口食べるたびに箸を置くとよいと思います。

また、自分の食行動を見直すには、「噛むこと日記」がおすすめです。1日1度でいいので、一口で噛む回数を数えて、記録します。正確でなくても構いません。それを1ヵ月続けると、自然と噛む回数が増えて、ゆっくり食べるようになります。毎日体重計に乗る感覚で、続けてみてはいかがでしょう。香川県のある地域で行った調査では、特定健康診査でメタボと判定された人を対象に、早食いを是正するための意識付けや咀嚼回数記録などを指導したところ、指導しなかった群と比べて、1年後に体重・BMI・腹囲が有意に減少した、という結果も出ています。

平成24年度国民健康・栄養調査によると、肥満者(BMIが25以上)の割合は、男性29.1%、女性19.4%、年齢が上がるに連れて肥満者の割合は高くなる傾向があります。今回の調査で、若年層の「早食い」と「肥満」の関係が明らかになったことから、「早食い」を早期に是正すれば、将来のメタボリックシンドロームの予防が期待できます。

森田 学(もりた・まなぶ)先生

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
歯学博士

1982年3月、大阪大学歯学部歯学科卒業。1982年4月、岡山大学歯学部予防歯科学講座助手。1987年4月、岡山大学歯学部附属病院講師。2000年12月、北海道大学大学院歯学研究科教授。2008年4月、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授。2011年4月、岡山大学病院副院長、岡山大学副理事。