骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨がスカスカになり、骨折しやすくなる病気です。日本にはおよそ1300万人の患者さんがいるといわれており、その数は高齢化に伴って年々増加傾向にあります。骨粗鬆症の原因には、加齢や閉経後のホルモンバランスの変化に加え、運動不足や偏った食生活、喫煙、アルコール、ステロイド薬の使用などもあげられます。また最近では、精神的なストレスも、骨粗鬆症の発症・進行に関与していることがわかってきました。ストレスが体からカルシウムを失わせ、骨を弱くするのです。
そこで、注目されているのが、「噛むことのストレス抑制作用」。噛むことがストレスを抑制し、さらには骨粗鬆症の抑制につながるというのです。これらの関連性について、噛む力と脳の関係を研究されている名古屋女子大学健康科学部長・久保金弥先生に、お話をうかがいました。

まず、骨粗鬆症がどのようにして起こるのか、教えてください。

最初に骨のお話を少ししましょう。骨は人の体を支える大事なもので、大人になっても日々つくり変えられていることをご存知でしょうか? 骨は、《骨のリモデリング(再構築)》といって、常に骨芽細胞による《骨形成》と、破骨細胞による《骨吸収》を繰り返しています。健康な骨は、破骨細胞が壊した分を、骨芽細胞が補っているのです。このバランスが保たれてこそ、骨は一定量、つまり強度を維持しています。
しかし、骨代謝のバランスが崩れて、破骨細胞の活動に対して、骨芽細胞の骨の生産が追いつかなくなると、骨がスカスカになって脆弱になります。これが骨粗鬆症です。

骨のリモデリング(再構築)

よく加齢が原因と言われますが、女性ホルモンの低下や喫煙、アルコールなども複合的な要因として挙げられています。また最近では、ストレスも骨形成と骨吸収のバランスを崩す要因になるという報告があり、私たちの実験でもそれが証明されました。

骨粗鬆症の原因としてストレスがあるとのことですが、噛むことは骨粗鬆症の予防にどうつながっているのでしょうか?

噛む動作には、ストレス緩和作用があることがわかっています。私たちが研究したのは、噛む動作が及ぼすストレス緩和作用と、それが骨量・骨質に及ぼす影響についてです。
実験では、マウスを用いて、ストレス負荷中に爪楊枝を噛ませる群【チューイング群】と噛ませない群【ストレス群】とに分けて、1日2時間のストレスを負荷しました。
負荷したストレスは、狭いチューブ内に拘束する「拘束ストレス法」と呼ばれるものです。ストレスに対する順応を避けるため、光刺激やケージ(飼育かご)の傾斜なども組み合わせて実施し、ストレスを負荷しない【対照群】とも比較しました。
それを4週連続行い、ストレス関連物質の血中濃度と骨代謝マーカーを測定しました。
その結果、【ストレス群】では、骨量の低下がみられました。骨代謝では、骨芽細胞数の減少による骨形成速度の低下と、破骨細胞による骨吸収の促進が確認されました。さらにストレス関連物質が、有意に高い値を示しました。
一方【チューイング群】では、破骨細胞が減少しただけでなく、骨形成が速く、より骨を健康な状態に戻そうという作用が働いていることがわかりました。また、ストレス関連物質も低い値でした。

こうしたことから、
①慢性的なストレスが継続すると骨代謝に悪影響を与え、骨量が低下する
②慢性的なストレスが負荷されても、噛むことを行っていると、ストレス反応が緩和すると同時に、骨代謝も改善する
ことがわかりました。
つまり、噛むことは、骨粗鬆症の進行の抑制につながると考えられます。

ストレス負荷時のチューイング(咀嚼)による骨量減少抑制効果

※腰椎椎体…背骨を構成している腰のあたりの骨
※大腿骨…足のつけ根から膝までの太ももの骨

ストレスを緩和して骨量の減少を防ぐための、効果的な噛み方を教えてください。

食事の際に、次のことを意識してみるといいでしょう。
クチャクチャと顎を上下に動かすのではなく、ウシが草を食べるようにモグモグとあごを左右に動かして、奥歯で食物をすりつぶすように噛みます。左右の奥歯を使って均等に噛み、1口につき30回程度は噛みましょう。姿勢も大切です。前かがみだと奥歯で噛みにくくなるので、背すじをしっかり伸ばして噛んでください。
食事のとき以外でも、ストレスを感じたときにガムを噛むのもよいと思います。ただし、長時間噛み続けると逆にストレスになる場合があるので、10〜15分くらいがおすすめです。

密度が低下してもろくなった骨は、運動機能低下とともに骨折の危険が伴います。骨折すると日常生活活動の低下が生じ、さらには寝たきりになってしまうことも少なくありません。特に現在の超高齢社会において、骨粗鬆症が医療費、介護の両面で大きな社会問題になっています。若い人でも油断は大敵。食生活の偏りや生活習慣が原因で、骨粗鬆症の危険性が高まります。健康な骨の維持のためにも、普段からよく噛むことを習慣づけていただきたいと思います。

久保 金弥(くぼ・きんや)先生

名古屋女子大学 健康科学部長
医学博士

1986年、朝日大学歯学部卒業。1991年、岐阜大学大学院医学研究科修了。2000年6月、朝日大学歯学部助手。2001年4月朝日大学歯学部講師。2009年10月、星城大学リハビリテーション学部教授。2010年4月、星城大学大学院健康支援学研究科教授。2017年4月、名古屋女子大学家政学部食物栄養学科教授。2017年5月、名古屋女子大学大学院生活学研究科教授。2019年4月から名古屋女子大学健康科学部長。「咀嚼と脳の研究所」の所長も務める。