ハート・リングフォーラム 口から考える認知症2021
ハート・リングフォーラム 口から考える認知症2021
~人生100年時代は、口の健康と食べる生きがい、から~

人生100年時代と言われる今、私たちは認知症とどのように向き合ったらいいのでしょうか。フォーラムでは、「口から考える認知症」をテーマに、医科、歯科、介護の視点から講演が行われました。

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講演1

「食べる」を考える;認知症と生きる人の場合

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 主任教授
日本認知症ケア学会理事長
繁田 雅弘

 半年前に夫を亡くし、意欲低下と悲哀などの抑うつ気分を抱える72歳の軽度アルツハイマー型認知症の女性、女性の食欲低下を心配する娘さん、治療者である私の診察室での会話を紹介します。女性は夫を亡くして体調が悪くなったこと、夫と一緒に朝食をとるという生活習慣がなくなったことなどから、食欲が低下。宅配弁当を食べたり、栄養剤を飲んだりしていますが、食べる意味、生きる意味が感じられず、食欲がありません。娘さんは食べることを願い、かつての趣味だった絵を描くことを勧めたり、散歩に誘ったりして母親の意欲を引き出そうとしますが、うまくいきません。「唯一、あんみつだけはおいしそうに食べていた」と娘さんから聞いた私は、「無理に食べたくないものを食べなくてもいいから、好きなものをおいしく食べてください」と勧めました。女性が「明日あんみつを食べるのは楽しみ」と言うので、食べる楽しみが明日を生きる意味になってよかったと思いました。もし、認知症にうつ病が合併しているのならば、治療が必要です。しかし、病気でなければ、無理に「食べよう」と自分に言い聞かせても変われるものではなく、無理に変えることができても、それは精神的に好ましい状態ではありません。生きるためと喜びのためという「食」の2つの目的が果たせなくなった時には、本人の選択を支援することが大切だと考えます。

講演2

口の機能をアップして健康長寿を

国立大学法人 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学系専攻
老化制御学講座 高齢者歯科学分野 教授
水口 俊介

 無歯顎で義歯未装着の者は残存歯20歯以上の者と比べて身体的・精神的健康状態が悪化するリスクが非常に高いこと、残存歯数と生存期間には有意な関係があること、口腔機能の低下が高齢者の身体的フレイル、サルコペニア、要介護、死亡などのリスクを高めることが様々な論文で明らかになり、「オーラルフレイル」「口腔機能低下症」を予防することへの関心が高まっています。
 咀嚼が脳血流を増加させる、脳の様々な部分に刺激に与える、ドーパミンを放出させるという研究報告もあります。残存歯数、かかりつけ歯科医のあるなし、咬合支持のあるなしが認知症の発症、認知機能の低下に関係しているという研究もあることから、歯周病と歯の喪失は認知症の発症に影響を与えると考えられます。また、咀嚼機能の低下によって「噛む」「食べる」が十分にできなくなることで脳への刺激が低下し、栄養状態が悪くなることが認知機能の低下につながると考えられます。
 こうしたことから、認知症の予防、健康長寿のためには口腔機能の維持が重要です。認知症患者の場合、口腔のセルフケアや介護者がケアすることが難しくなります。口腔疾患はQOLを大きく損ないますし、生命予後にも影響することから、かかりつけ歯科医の認知症予防、認知症の早期発見、早期対応に果たす役割は大きいと考えます。

講演3

認知症の人の口を支えるために
~歯科界の取り組み~

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
歯科口腔外科部長/研究所研究部長
平野 浩彦

 認知症の人の数は将来増え続けることが予想されることから、政府は令和元年に「認知症施策推進大綱」を発表。「認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、共生と予防を車の両輪とした施策を推進する」とし、歯科の役割として「口腔機能の管理を通して本人と家族を支援すること」「日常の高齢者との関わりを通じて認知症を早期に発見し、かかりつけ医と連携して対応すること」「認知症対応能力研修を実施すること」を挙げています。
 認知症の人と「共生」していくためには、認知症の人にとって世界がどう見えるのか、何に不安を感じるのかを知り、その見え方、感じ方を共有した環境づくりが必要です。そのため、歯科医師会では「認知症の人の歯科医療ガイドライン」を作成。「認知症を歯科治療ができない理由にしない」を目標に2016年から「認知症対応力向上研修」を実施しています。研修では、様々な事例動画を通して、認知症の人とその家族の想いについて学び、それにどう対応すればいいかを、歯科医療関係者それぞれが考えます。研修を受けて、本人、家族と認知症について話せる歯科医師の数は10万5千人になりました。今後も、本人、ご家族と一緒に認知症に向き合い、口の専門家として、認知症の人の「食べる口づくり」のお手伝いをしたいと思います。

講演4

高齢者や認知症を有する人への
口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防

医学博士 医療法人 生愛会 理事長・総院長 社会福祉法人 生愛福祉事業団 理事長
金沢大学医学部臨床教授 福島県立医科大学医学部臨床教授
奥羽大学歯学部客員教授
本間 達也

 誤嚥とは、嚥下の時に食道に入るべき食べ物が誤って声帯を超えて気管や肺に入ってしまうことです。通常は声帯を超えないように「むせ」の反射が起き、気道から食べ物を喀出するのですが、高齢者の場合このむせがうまくいかないことが多いのです。人は睡眠中も嚥下を行っていて、寝ている間にも唾液や異物、細菌などが気管に誤って入る不顕性誤嚥が起こります。これらの誤嚥を予防するためには、口腔ケアが重要です。「好きなものを食べる」「好きなことを話す」「元気に笑う」ことは、その人らしさに通じるので、高齢者が豊かに生きるためには、口腔ケアによってQOLを高め、全身の健康を維持することが大切になります。高齢者の直接の死因の1位は肺炎ですが、高齢者施設の入所者に適切な口腔ケアを行ったことで、発熱、肺炎が減ったという研究もあります。認知症の人の場合、症状が進むと従来通りに食事を楽しむことが難しくなります。口の機能が衰えると誤嚥性肺炎の危険も高まりますので、この場合も口腔ケアが重要になります。
 実際に施設で高齢者の口腔ケアを行ったことで、熱が下がった、健康状態がよくなった例が報告されています。食べ続けられるように多職種で食の支援を行うことで、高齢者は食べることが楽しくなり、笑顔が出て、心も体も元気になっていきます。

講演5

オーラルフレイルを予防しよう。

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所
専門副部長 歯科衛生士
小原 由紀

 お口の健康を守るためには、むし歯や歯周病の予防と、食べる、話すなど生活に直結した機能をしっかりと維持することが大切です。高齢期においては、歯の数だけでなく、口腔の働きをしっかりと維持することが重要になります。些細な口腔機能の低下である「オーラルフレイル」は、要介護や死亡のリスクを高めることがわかっています。
 咀嚼には「咬み切り」「咬み砕き」「すりつぶし」の3つの要素があり、咀嚼に必要なのは歯だけではありません。咀嚼筋などの筋肉、舌の動き、唾液の分泌も必要です。咀嚼機能を維持するためには、口を最大限に開けて10秒保持し10秒休憩を繰り返す開口訓練、パ、タ、カをそれぞれ10回繰り返して発音する滑舌訓練、舌の先をほおの内側に強く押し付け、ほおの上から指先で舌の先を押さえて抵抗を付ける舌圧訓練、唾液腺マッサージを行うとよいでしょう。
 「高齢者が生きがいを感じる時」という内閣府の調査では、「孫など家族との団らんの時」「友人や知人と食事・雑談をしている時」「おいしいものを食べている時」など、「食べる」「話す」に関わる時間が挙がっています。口腔の健康を維持して楽しい時間を過ごすために、咀嚼機能を維持する訓練を続けること、毎日よく噛んでたくさん話すことを心がけ、定期的に歯科健診に行きましょう。

主催:
読売新聞東京本社、NPO法人 ハート・リング運動

後援:
厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会

協賛:
株式会社ロッテ

ハート・リング運動に関するお問い合わせ
ハート・リングフォーラム事務局 電話 03-5565-4685
(10:00~17:00、土・日・祝日を除く)