日々の勉強に「噛む」を取り入れよう! 「噛む」ことがもたらす「学習」に関する効果を解説します。

「噛む」ことで学習の効率アップ!

「噛む」ことを取り入れるだけで、学習に役立つことがいっぱいあるのです。

あんなに勉強したのに、いざ試験となるとどうしても思い出せない。
そんな悔しさを、誰もが一度は体験したことがあるのではないでしょうか。

ここでは、最新の研究から見えてきた「噛む」ことと「記憶」の関係を説明します。
覚えたことを長時間忘れないためにはどうしたらよいのか、記憶するチカラを高めるにはどんな方法が有効であるかなど、明日からの勉強に役立つ情報を集めました。

一生懸命、時間をかけて努力したことを無駄にしないためにも、効率的に記憶するコツを掴んで充実した生活を送りましょう。

01:ふだんはあまり意識していない「記憶」を意識してみよう

効率よく勉強を進めていくためには、人間の記憶のメカニズムを知っておくことも大切です。
私たちは、日常、無意識に多くのことを記憶していますが、一瞬だけ覚えて忘れてしまう記憶(短期記憶)や、時間が経っても思い出せる記憶(長期記憶)など、いくつかのタイプがあることを知っていますか。

反復学習で記憶を留めようとしたり、計算の際に過去に記憶した公式を思い出したり、情報は「出たり入ったり」を繰り返します。
その際、情報処理を行いながら、一時的に記憶を保持する機能は「ワーキングメモリー(作業記憶)」と呼ばれ、近年の研究で、その役割が大変重要であると注目されています。

02:覚えるときも、考えるときも常に働く「ワーキングメモリー」。

「ワーキングメモリー」は、記憶の内容を検索したり、参照したりするなど、現在進行中の作業に深く関わっていると考えられています。

例えば、単語を暗記するために単語帳を作成するとします。テキストから単語を書き写す際、その情報はほんの一時的に記憶されることになりますが、それだけで暗記されたことにはなりません。

何度も繰り返すうちに単語を暗記できるというのは「長期記憶」として保存されたことを意味します。
長文読解の試験で覚えた単語を活用できるのは「ワーキングメモリー」が「長期記憶」にアクセスしているからです。

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03:「ワーキングメモリー」が受験勉強のカギ。

しっかり暗記できていたはずなのに、試験問題になったら勉強の成果を十分に発揮できなかったことはありませんか。
「長期記憶」は学習する際に間違いなく重要ですが、学習の過程には「短期記憶」があり、
学習している時や試験中には「ワーキングメモリー」の能力が高いほど有利であるといえます。

「短期記憶」が、一時的または機械的に覚えておく能力であるのに対し「ワーキングメモリー」は、目的に応じて情報を処理する能力や創造的な側面を併せ持つため、高いパフォーマンスが求められる受験勉強には欠かせない能力といえるでしょう。

04:「勉強疲れ」を感じる時、脳の中では何が起きているの?

1日に何時間も勉強を続ける人、たとえば、受験生の多くは肉体的にも精神的にも疲れやストレスを感じていることでしょう。特に脳が疲れて「ワーキングメモリー」の機能が低下してしまうと、無理をして勉強を続けても思うようにはかどらなくなります。

では「ワーキングメモリー」の機能を回復させるには、どのようにすればよいのでしょうか。

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05:「噛む」ことと「ワーキングメモリー」の関係。

勉強を長時間続けると、集中力がなくなり作業効率が落ちてきます。作業効率が落ちてくる原因の一つが「ワーキングメモリー」の低下です。暗記や長時間の読書などを強いられる受験勉強は「ワーキングメモリー」を稼働し続ける必要があるため、時間が経つにつれ徐々に疲労してきます。そんなとき、ガムなどを噛むことで「ワーキングメモリー」の回復に効果があるという研究結果があります。

放射線医学総合研究所の小畠研究室と小野塚實教授らがfMRIを用いて行った共同研究によれば「噛む」ことが脳に刺激を与え、脳が得た情報を一時的に保つ「ワーキングメモリー」の機能向上に作用するという結果が報告されています。

fMRIって何?

病院の検査などで使用されるMRI(Magnetic Resonance Imaging)は、中に磁場が働いており、入った人の頭や体に電磁波を当てる仕組みになっています。返ってきた信号を計算することによって、人を傷つけないで断面の画像を撮像できる装置です。
この記事で紹介する実験に使われたfMRI(functional MRI)は、MRIを使った撮像法の一つで、脳に酸素を運ぶヘモグロビンの特性の変化に敏感な特徴を持ちます。神経活動時に酸素と結合していないヘモグロビンの濃度が減ることで、その場所の信号値が上昇し、脳活動が見えるようになりました。

06:「噛む」ことで学習効率の低下をV字回復。

実験で行われた具体的な方法は、MRI装置内のスクリーンに「A、D、B、A、C…」などの文字を2秒間隔で1秒間表示し、被験者には、「2つ前(あるいは3つ前)の文字と同じ場合にボタンを押す」という指示を与えるというもの。

無味無臭のガムを、噛んだ直後の状態と、ガムを噛まない状態でそれぞれ測定を行い「BOLD信号(脳活動を反映する信号)」の上昇率の差と正答率を計測。ガムを噛まない状態で作業を続けるにつれ、正答率とBOLD信号が低下するが、ガムを噛んだ直後では、正答率もBOLD信号も回復することがわかったのです。(図①)

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07:噛めば「注意力」も「応答速度」もアップ!

放射線医学総合研究所の小畠研究室と、小野塚實教授らが行った共同研究では、「噛む」ことが応答速度の改善にも影響していることを示唆しています。

実験で被験者は、数秒から十数秒の間隔でスクリーンに映し出される矢印の方向を当てるように指示されます。もうすぐ映るという合図の有無、映される矢印の方向を判断しづらくする妨害の有無など、いくつかの条件下でガムを噛んだ直後と噛まない場合で速度比較を行い、同時にその際の脳活動の変化をfMRIを用いて、測定しました。

実験の結果、ガムを噛むことで応答速度が向上するだけでなく、注意力に関係している脳の活動も高まることがわかりました。(図②)

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この結果は「噛む」ことが脳の注意ネットワークを活性化することを意味しており、世界で初めて、この現象の画像化に成功したことで注目されています。(図③)

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これまで説明してきたように「噛む」という行為には脳の働きを良くする可能性があることが、近年の研究で明らかになってきました。

日々の勉強時間にぜひ「噛む」ことを取り入れてみてください。この記事がみなさんの学習に少しでもお役に立てることを願っています。

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