ハート・リングフォーラム認知症の新・常識2017 in福岡
「口から考える、認知症」
あなたとご家族のための、介護・生活・予防の知恵

65歳以上の4人に1人が、認知症の予備軍だと推計されている現在、注目され始めているのが、口の持つさまざまな役割や機能を見直すことです。
食べる、話す、噛む、飲み込む。こうした人間としての基本的な機能を良好に維持することで、仮に認知症となってもその経過やQOL(生活の質)の維持に、大きな成果が生まれるためです。
現場で活躍する第一人者や、実際に介護をする家族や本人の声を織り交ぜながら、これから知っておくべき認知症の最新知見をお伝えします。

フォーラムは大盛況のうち、終了いたしました。
2月26日に、福岡で開催されたその様子をご報告いたします。

<第一部>

講演1 「認知症の症状と診断」

坪井 義夫氏 福岡大学医学部神経内科学教授、福岡市認知症疾患医療センター長

変化を見逃さず早期発見・治療を

認知症は脳に何らかの障害が起こり、正常な記憶力や判断力が低下して生活に支障を来たす状態のことを指します。認知症には数種類あり、特に発症が多いのは記憶をつかさどる海馬が縮んでいくアルツハイマー型と脳の神経細胞が壊れていくレビー小体型です。

認知症の代表的な症状は、記憶障害です。まず知っておきたいのは、記憶を一時的に思い出せないだけの加齢による物忘れと異なり、認知症の場合は記憶がすっぽり抜けて、何かヒントを与えても思い出せないということです。

その他の特徴的な症状は、同じ話を何度もする、道に迷う、捜し物が増える、日時を間違える、お金や薬の管理ができなくなる、物忘れを自覚していないなど。また大事な物をとられたと訴える物とられ妄想が見られることも少なくありません。

このような変化に早めに気付き、病院で正確な診断を受け、適切な治療を受けることが大切です。
認知症予防には食生活もポイントの一つ。オリーブオイルや魚介類を多用する地中海料理や和食が好ましいといわれます。

特に青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、赤ワインなどに含まれるポリフェノールを努めて摂取することをお勧めします。

講演2 「認知症を支える歯科医療」

柏﨑 晴彦氏 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座
高齢者歯科学・全身管理歯科学分野 教授

口腔ケアで食べる機能と健康を維持

体温と同じ37度前後に保たれ、唾液で潤っている口の中は、細菌が生息しやすい環境です。
歯科の2大疾患である虫歯と歯周病の原因はいずれも基本的に細菌で、歯垢(プラーク)には両疾患の要因となる細菌がひしめいています。歯の周りには無数に血管があり、進行した虫歯や歯周病の細菌が血液を介して全身に影響を及ぼします。

高齢者の直接的死亡原因の1位である誤嚥性肺炎(細菌が唾液や胃液と共に肺に流れ込んで生じる肺炎)も、歯周病の細菌が原因であるケースが多い。高齢者の健康維持には歯科治療や歯磨き、歯垢除去などの口腔ケアが欠かせません。

実は要介護の高齢者の認知機能低下リスクが、口腔ケアで低減したという結果も出ています。
かむ力と認知機能には関わりがあり、歯が20本以上ある人と比べ、歯がなく入れ歯も使っていない人は1・9倍も認知症になりやすいのです。
認知症が進み要介護になると自力で歯磨きをするのも難しくなり、より口腔の状態が悪化しやすくなります。大事なのは何も問題のない早い段階から定期的にかかりつけ歯科でチェックを受け、ケアを継続していくこと。もし通常の歯科治療が難しくなるほど認知症が進行しても、大学病院のような高次医療機関では鎮静法などを用いて治療が可能です。

<第2部>

講演3 「よく噛んで、おいしく食べ続けることの大切さ」

柳沢 幸江氏 和洋女子大学 家政学群長 健康栄養学類教授 日本咀嚼学会 理事

食べることでいろんな感覚や機能を保持

口を介して物を食べるということは、五感を使って食べ物を認識し、おいしさを味わうということ。それはかむ力(舌・歯・筋肉・唾液)を維持することで初めて続けることができます。

おいしいという感覚は過去の食事経験によってつくられ、脳に記憶されます。食べ物をよくかんで脳がおいしさを感じることで消化吸収が促進。またかんで食べることで多くの感覚や機能が使われ、そうすることでそれらの働きも維持できるというリハビリ的な側面もあります。
ですから少しでも長く口から食べ続けることが重要になるのです。

認知症になると、食事の拒否や食べ物ではない物を口に入れようとする異常行動などが見られるようになります。その際、食べ物である事が正しく認識できているのか、味覚が働いているのかなど認知症によって何ができないのかを見定めることが大事です。
例えば皮付きの栗を食べてきた人には、むいた栗をだすのではなく自分でむくなど、本人がこれまで続けてきた食べ方に従った状況をつくり、本人の好物を出すことが認知症の方への基本的な配慮になります。香りもおいしさの要素ですが、高齢になると臭覚の衰えが進みますので、みそ汁のかつおだしを利かせるなど香りを際立たせる工夫も望ましいでしょう。

講演4 「両親の介護体験20年から思う認知症と社会」

早田 雅美氏 NPO法人ハート・リング運動 専務理事

情報を共有し、力を出し合いチームで介護

認知症の父が亡くなった後に母も認知症を発症し、仕事をしながらの介護生活を20年続けています。父のときは初めての経験だったこともあり、気持ちはどうしてもネガティブになってしまいました。母のケアでは自分も母も少しでも幸せになるようにと視点を変えました。
できる範囲で母と一緒に食事に出掛けたりも。しかし、そのうち母の機能が低下し、胃ろうの処置を余儀なくされました。何とか口から食べてもらいたいと訪問歯科医師にも相談しながら試行錯誤し、母の好物の甘酒をゼリーにするなどしたら成功。結局、ウナギのかば焼きを食せるようにまでV字回復したのです。

現在はそのときよりかなり状態は悪くなりましたが、口から食べてもらうことを諦めずに取り組んでいます。重い状態の認知症の介護は、家族だけではできません。目標を立て主治医や訪問歯科医師など専門家と情報を共有しながら力を合わせて進んでいけば、必ず良い方向へ向かうというのが実感です。

主催:
西日本新聞社、NPO法人 ハート・リング運動

後援:
厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、福岡県歯科医師会、日本看護協会

協賛:
株式会社ロッテ

ハート・リング運動に関するお問い合わせ
ハート・リングフォーラム事務局 電話 03-5565-4685
(10:00~17:00、土・日・祝日を除く)