ガムを噛むことが毛髪にも影響の可能性!? 頭皮血流の増加が明らかに—ガム咀嚼習慣と毛髪の太さ・頭皮血流に関する研究—

株式会社ロッテは、「噛むこと」の健康機能に着目して、さまざまな研究に取り組んでいます。今回は毛髪に着目し、ガム咀嚼習慣と毛髪径に関する観察研究<研究①>と、ガム咀嚼による頭皮血流への影響<研究②>を検証いたしました。
その結果、ガム咀嚼時間が多い群で頭頂部の毛髪が有意に太く、ガム咀嚼により前頭部、頭頂部ともに頭皮血流が増加することが確認されました。

●ストレス社会、20歳代男女に広がる薄毛・抜け毛の悩み

ストレスの多い現代社会において、睡眠時間や生活習慣が乱れ、抜け毛や薄毛を気にしている人が増加しています。頭髪に関する悩みとして、加齢に伴う薄毛・抜け毛に加えて、若年世代の薄毛トラブルや女性の産後の抜け毛などが挙げられます。
「頭髪に関する意識調査」では、「現在、薄毛・抜け毛が気になりますか」の設問に対して、「とても気にしている」「気にしている」「すこし気にしている」と回答した方が、20〜29歳代男女層が最多であり<図1>、若年世代の薄毛の悩み、将来的な心配などの可能性がある事がわかりました。
高齢者だけでなく、若者にも薄毛の悩みが広がる一方で、普段から薄毛や抜け毛の予防・対策を行っている人は過半数を切り、「全く行っていない」と回答した人が52.0%もいることがわかりました<図2>。
予防・対策に関して、経済的・時間的にハードルが高い、薄毛治療への抵抗感があるなど、薄毛や抜け毛に悩んでいても、さまざまな理由からなかなか一歩を踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

薄毛(脱毛症)に悩む人は年々増加傾向にあるとされています。脱毛の症状が進行すると心理的苦痛や社会機能の低下を経験する可能性があるという報告もあり、薄毛の予防・改善は、人々の生活の質や心の健康に大きな影響を与える可能性があります。
ロッテ中央研究所では、こうした社会的背景を踏まえて、ガム咀嚼習慣と毛髪径に関する観察研究<研究①>と、ガム咀嚼による頭皮血流への影響<研究②>を検証いたしました。以下にその結果を報告いたします。

●研究①ガム咀嚼習慣と毛髪径に関する観察研究(2020年実施)

概要:

咀嚼が毛髪に影響を与える可能性についての観察

普段どれだけの時間ガムを噛むかというガム咀嚼習慣と、頭部の毛髪の太さが関連する可能性についての観察研究を実施。これまでの生活(平日)の中で、ガム咀嚼時間が多い群と、少ない群に分けて、それぞれの毛髪径を比較しました。

対象:
ロッテ中央研究所の研究員27名
(男性21名、女性6名、24~51歳:平均年齢36.4±8.7歳)
*毛髪関連の症状(毛髪が無い人を含む)が認められる人、毛髪に対するサプリメント・製品を使用している人、妊娠している人、2親等以内に毛髪の薄い人がおり、かつストレスを強く感じている人は、調査から除外。

方法:
1)ガム咀嚼時間アンケート:
これまでの日常的なガム平均咀嚼時間を集計し、咀嚼時間により群分け
*ガム咀嚼時間が多い群:14名
(男性11名、女性3名、平均34.0±5.9歳)…1日の平均 51.1±13.0分
*ガム咀嚼時間が少ない群:13名
(男性10名、女性3名、平均38.9±10.9歳)…1日の平均 10.0±6.8分
2) 毛髪径評価:
頭頂部(両耳を結んだ頂点)、側頭部(耳の上部で咀嚼時に側頭筋が隆起する点)の毛髪を根元付近から10本ずつハサミで切り落とし、毛髪の切り口から約1cmの箇所をマイクロスコープで撮影し、太さを計測。

結果:

ガム咀嚼時間が多い群では頭頂部毛髪が有意に太いという結果

調査の結果、これまでの生活の中でガム咀嚼時間が多い群では、少ない群と比較して、頭頂部毛髪が有意に太いという結果が得られました。一方で、側頭部に関しては、有意な差が認められませんでした。
なお、本研究はあくまで調査研究であり、ガム咀嚼習慣と毛髪の太さに関る因果関係を証明したものではありません。

今回の研究は、ガム咀嚼は脳への血流や頸動脈の血流が増加することが明らかになっていることから、咀嚼は脳血流だけでなく、頭皮血流の増加にも影響が与えられるのではないか?という仮説のもと行われました。本研究結果を足掛かりに、今後、専門家のご意見を伺いながら、咀嚼による頭皮血流への影響や長期ガム咀嚼介入研究による毛髪径への影響を評価することで、咀嚼が毛髪に影響を与える可能性について継続して研究を進めて参ります。ロッテは今後も“噛むこと”で、人々の生活の質、心の健康に寄与することが出来ればと考えています。
研究詳細については「アンチ・エイジング医学―日本抗加齢医学会(2021年17巻2号)」に掲載されていますので、掲載誌をご確認ください。

●研究②ガム咀嚼による頭皮血流への影響(2022年実施)

概要:

仮説「ガム咀嚼は頭皮血流に影響があるのか?」

薄毛(脱毛症)の予防・改善では、地肌マッサージによって頭皮における血流量が上昇すること1)、頭皮マッサージを24週間行うことで毛髪径が増加すること2)が報告されています。また、ガム咀嚼により、脳血流や総頚動脈の血流が増加する3)4)ことが報告されており 、私たちの過去の調査研究で、1日30分以上ガムを噛む習慣を持つ人の頭頂部の毛髪径が有意に太かったという知見5)も得ています。
以上より、「ガム咀嚼は頭皮血流に影響をあたえる」と仮説をたて、ガム咀嚼による頭皮血流への影響を検証いたしました。

1) 曽我元,森田康治,新井賢二. 地肌マッサージの頭皮への作用. J Soc Cosmet Chem Jpn. 2014;48:97-103.
2) Koyama T, Kobayashi K, Hama T, Murakami K, Ogawa R. Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue. Eplasty.2016;16:53-64.
3) Momose T, Nishikawa J, Watababe T, Sasaki Y, Senda M, Kubota K, et al. Effect of mastication on regional cerebral blood flow in humans examined by positron-emission tomography with ¹⁵O-labelled water and magnetic resonance imaging. Arch Oral Biol. 1997 ; 42:57-61.
4) 鈴木政登,石山育郎,滝口俊男, 石川 久史, 鈴木 義久, 佐藤 吉永. チューイングガム咀嚼時総頸動脈血流量、酸素摂取量、心拍数および血圧反応に及ぼすガムの硬さの影響. 日本咀嚼学会雑誌 1994;4:51-62.
5) 大島直也, 菅野範, 大澤謙二. ガム咀嚼習慣による毛髪への影響 : 観察研究. 日本抗加齢医学会 2021 ; 17 : 186-89.

対象:
25~53歳の健常な男女20名(平均年齢35.3±9.1歳、男性10人 女性10人)

方法:
対象者全員がガム咀嚼時と無咀嚼時の頭皮血流(前頭部、頭頂部)を測定し、安静時からの変化を比較

結果:

頭皮血流増加の要因について

研究結果では、無摂取時と比較し、ガム咀嚼時の頭頂部および前頭部の頭皮血流が有意に増加することを示しました。
人間の顔は、円筒状で横紋を持つ筋線維から構成され、随意に動かすことができる咀嚼筋があり、咀嚼により収縮します。また、外頚動脈の主要な二本の枝の一つに顎動脈があり、上顎・下顎・鼻腔・口蓋に分布しています。
咀嚼による咀嚼筋の収縮や口腔周りへの刺激により、顎動脈の血流が増加した結果、頭皮血流の増加につながった可能性が考えられます。

研究詳細については「薬理と治療(2022年50巻9号、1605-1609)」に掲載されていますので、掲載誌をご確認ください。

【噛むこと研究部 コメント】

過去の私たちの調査研究<研究①>では、1日のガム咀嚼時間が多い群と少ない群の、頭頂部と側頭部の毛髪の太さを比較しました。その結果、ガム咀嚼時間が多い群の方が、頭頂部の毛髪が有意に太いことがわかり、ガム咀嚼習慣と毛髪の太さの関連性が示唆されました。また、ガム咀嚼により脳血流や総頚動脈の血流が増加することも報告されていました。
そこで今回、「ガム咀嚼が頭皮血流にも影響するのではないか?」という仮説を立てて、研究<研究②>を行いました。
今回の研究結果から、ガム咀嚼により頭皮血流は頭頂部で44.0%、前頭部で47.1%の上昇が認められました。頭皮血流の増加が、毛髪に影響を及ぼす可能性が考えられます。しかし、ガム咀嚼による毛髪に効果を認めた研究成果はまだ出ていません。
今後も引き続き、ガム咀嚼による長期的な介入試験を行い、毛髪の太さや密度などへの影響を検討してまいります。