ハート・リングフォーラム 口から考える認知症 2017 in東京
“認知症時代”を明るく照らす視点
すべての人にやさしい社会をめざして

超高齢社会を迎えて久しい日本において「認知症」は誰にとっても“身近な問題”といえる、健康上の大きなテーマ。
そんな認知症の予防や発症後の暮らし、口の機能との深い関係性などについて考えるためのフォーラムが先日、都内で開催されました。

オープニングプレゼンテーション

健康長寿をめざす日本。認知症でも安心して暮らせる社会へ。

今村 聡氏 公益社団法人 日本医師会副会長
NPO法人 ハート・リング運動代表理事

「生活」そのものがケアに

2025年には、日本の65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。認知症とは「近い記憶の低下」をきたしている状態のことで、記憶障害のほかにも抑うつや興奮、徘徊など、周辺症状が起こることもあります。現在の医学では、記憶障害を根本的に治すことは不可能で、薬を使って進行を遅らせることしかできません。

認知症のケアとなるのは「生活」そのもの。環境の変化を避け、自分のペースを大切にしながら、心身の力を最大限に引き出せる暮らしが重要です。認知症患者をはじめとする要介護者が、住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、国は「地域包括ケアシステム※」の構築を進めています。認知症でも安心して暮らせる社会の実現をめざして、地域の医療や介護に関わる様々な職種の連携が一層進むことが期待されています。
※住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組み

特別基調講演

高齢者の持つ力で豊かな高齢社会に

清家 篤氏 慶應義塾大学商学部教授
慶應義塾学事顧問(前慶應義塾長)

健康寿命を延ばして社会に貢献を

日本ではいまや人口の4分の1以上を65歳以上の高齢者が占めています。注目すべきは、高齢者の中でも〝特に高齢の方〟の比率が増えていること。2025年には団塊の世代のすべての人が75歳以上になり、高齢者のおよそ6割を占めるようになります。
平均寿命が大幅に延びたことは、日本の経済的な発展や医療水準の向上の賜物であり、喜びたいもの。そのためには「健康で長生きをする」ことが重要です。健康寿命が長くなれば、職業寿命や消費寿命も延びて、個人にも社会にもたくさんのメリットがもたらされるでしょう。健康寿命を延ばすには、生活習慣病の予防が欠かせません。また、様々な活動をすることが健康長寿につながるので、将来的には引退年齢をさらに延ばして、社会を支える側でいる期間を長くすることを検討すべきではないでしょうか。日本の高齢者には就労意欲の高い人が多く、定年のない中小企業などでは、年齢を重ねてもその能力を活かしてイキイキと働いている人も大勢います。
私はいま、人工知能やロボットなどの技術革新や生命科学の進歩にも大きな期待を寄せています。それらによって医療や介護をより良いものにできれば、他の国々に先駆けて生涯現役の超高齢社会を実現した国として、世界によい先例を示すこともできるでしょう。

グローバル化する認知症~予防と共生に向けて~

荒井 啓行氏 東北大学加齢医学研究所 老年医学分野教授
平成28年第6回認知症予防学会学術集会会長

“発症前の20年”で対策を

2013年、イギリスのキャメロン首相はロンドンでG8認知症サミットを開き、認知症対策が世界共通の課題であるという認識を共有しました。2013年時点で世界4400万人を超えた認知症患者は、20年後に倍増するともいわれており、その分の医療コストも増大します。サミットでは、2025年までに認知症の進行を停止させる新薬を開発するという目標も立てられました。

日本における認知症の推定患者数は約500万人。この数は高齢化が加速した2000年代から急激に増加しており、「加齢」が強いリスクファクターであることが分かります。現に認知症は65歳までほとんど見られず、そこから5年ごとに倍増していくのです。

認知症の一種であるアルツハイマー病は、20年かけて脳にダメージが蓄積され、その後に症状が表れるため、発症前の20年で予防することが重要。具体的には「糖尿病」「高血圧」「喫煙」などがリスクを高めると考えられるので注意が必要です。体重減少とアルツハイマー病の関係性も示唆されていますから、食べる量が減ることなどによる「フレイル」(加齢に伴う心身の機能の低下)にも気をつけましょう。

口から食べる楽しみ いつまでも

古屋 純一氏 東京医科歯科大学大学院
地域・福祉口腔機能管理学分野教授

全身の健康と関わる歯周病

一言で「口から食べる」といっても、その中には「目で見る」「口に取り込む」「噛む」「舌で送り込む」「ノドで飲み込む」といった過程が含まれます。高齢になると、飲み込みを含めた食べる力が落ちやすく、これを改善するためには「口腔」「咀嚼」からのアプローチが有効。特に、病気に左右されることが少ない歯の治療は効果的です。
そんな歯を失う最大の原因は歯周病。細菌感染による炎症である歯周病は、全身の健康とも関係するとされており、その疾患の一つが認知症なのです。また、噛んだり、飲み込んだりする力の衰えも、認知機能の低下と関わっているとされています。

口から食べることは、人間の尊厳を支える行為でもあります。認知症になると、食事に時間がかかったり、時に苦痛にもなりがちです。周りの方は、専門家の助けを借りつつ、声かけ、見守り、食環境整備(スプーンのサイズ等)、食形態調整(とろみ等)などで「食べる支援」をしてください。そして、元気なうちから、かかりつけの歯科を持ち、しっかりと歯の治療とケアを行うようにしましょう。

泣き笑い体験談 仕事をしながら!認知症の親を看る。

消えない後悔と大切な時間

松本 秀夫氏 フリーアナウンサー(元ニッポン放送アナウンサー)
「熱闘!介護実況」著者


認知症の母と私の介護生活は〝惨敗の記憶〟。高齢の祖母に一時介護を任せてしまったり、母へイライラをぶつけてしまったり…生活は荒んでいました。うまくいかない家庭からの逃げ道として、介護を始めた部分があることも反省しています。母は次第に甘いものに執着するようになりましたが、もう少しその声に耳を傾け、食べる喜びを与えてあげたかったとも思います。ただ、2人だけの空間の中では、心にしまっていた本音を語り合えました。そのことには、いまでも感謝しています。

すべての長寿が祝われる社会へ

早田 雅美氏 NPO法人 ハート・リング運動専務理事


両親を介護した経験の中で分かったのは「人を救えるのは人」だということ。現在も介護中の母と訪れた旅館では、従業員の方に「あまり悩まずに来年も来ることを目標にしましょう」という言葉をかけていただき、勇気づけられました。そして、食べる喜びに理屈はいりません。母は胃ろうですが、元気がある時は口から好きなものを食べてもらうようにしているんです。日本には昔から長寿を祝福する思想があります。認知症であっても、安心して老い、それを皆から祝われる社会になれば幸いです。

主催:
読売新聞東京本社、NPO法人 ハート・リング運動

後援:
厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会

協賛:
株式会社ロッテ

ハート・リング運動に関するお問い合わせ
ハート・リングフォーラム事務局 電話 03-5565-4685
(10:00~17:00、土・日・祝日を除く)