NHKテキスト「きょうの健康」にて掲載された、「めざせ8020」の記事をお届けいたします。

めざせ8020 第11回

自分の歯で噛むことは心身の健康の必須条件

年齢が上がるにつれ、免疫力が落ちていくことは皆さんご存知でしょう。これは単に加齢が原因というだけではなく、自分の歯で噛めなくなって、必要な栄養がとれなくなることも要因の一つです。特に、野菜がしっかり噛めなくなって、野菜の摂取量が減ってしまうことは問題です。野菜に含まれるビタミンやミネラルは免疫力(体に備わる防衛機能)を維持するのに欠かせない栄養素です。ビタミン類の不足によって免疫力が低下すると、活性酸素といわれる体を酸化させる物質が増えて、がんや認知症などを引き起こすといわれています。

また、私たちが行った「新潟高齢者スタディー」では、高齢者であっても食べたいという欲求が満たされないと、それが大きな心のストレスになることがわかりました。それだけでなく、歯がなくて咀嚼がしっかりできない人と咀嚼できる人とを比べると、咀嚼できない人は明らかに生存率が低いというデータもあります。

さらに、上下の歯の噛み合わせが多い人ほどあごの位置が定まり、全身のバランスがよくなって、敏捷性やジャンプ力などの身体機能が高いという調査報告も出ています。

このように、歯の数や噛み合わせなどの口腔機能と全身の機能は非常に複雑に絡み合っており、歯がなくて噛めない状態は身体的・精神的な問題を引き起こすことがわかっています。口腔機能を健康に保つことは、体の健康維持に直接的に影響するといっても過言ではありません。

口腔機能を健康に保つのに気をつけなければならないのが歯周病です。歯をなくす主な原因はむし歯と歯周病ですが、歯周病は年齢とともに悪化し、40歳を過ぎると歯周病で抜歯する人が急激に増えてしまいます。歯周病は20年、30年という期間をかけて発症するという点では生活習慣病と同じです。症状のない段階からケアをしておくことが非常に大切です。

もう一つ、歯周病と関連して日頃から気をつけたいのが口臭です。口臭の主な原因は揮発性硫黄化合物(VSC)です。VSCは食べかすやはがれ落ちた細胞などが口の中の常在菌によって分解されて発生するもので、舌苔(舌の表面の白い苔のようなもの)で産生されます。そして、歯周病菌はVSCのなかでも悪臭の強いメチルメルカプタンという物質を大量に産生します。

家族から口臭を指摘されたら歯周病かもしれません。歯科医師を受診してチェックしてもらいましょう。それが、将来の健康的な生活の基盤作りにつながります。

宮﨑秀夫

新潟大学大学院医歯学総合研究科教授。予防歯科、口臭を専門とし、日本で最初に口臭専門外来を開設。国際口臭学会、国際歯科研究学会などに所属。

8020さんのご紹介:噛めることのありがたさを知った闘病生活

西嶋マキさん

年齢:82歳 歯の数:24本

西嶋さんの病歴は60年近い。24歳で肝炎を発症。その後、肝硬変から食道静脈瘤へと進行した。食道静脈瘤の手術は7回ほど受けているが、なんといっても苦しい思いをしたのが、手術後の食事だったという。病院の食事は重湯から始まり、三分粥、五分粥へと徐々に固形物に変わっていくのだが、五分粥になると喉に詰まってしまうのだ。医師から「ひと口100回噛むように」と指導され、柔らかい粥を100回噛んだ。「今にして思えば、歯があったから噛めたのよ」と当時を振り返る。
闘病中といはいえ、子育て、ご主人の世話、そしてご主人の両親の介護のために東京と九州を行ったり来たりと、自分の病気を嘆いている暇はなかった。「子どもの頃から極楽とんぼと呼ばれていたけれど、のんきな性格がよかったのかしら」と自分自身を分析する。

2年ほど前に新薬によって肝炎は全快。「いただいた命を楽しく生きたい」と、3か月前から三味線の稽古を始めた。

取り柄は、「快食、快眠、快便」という西嶋さんだが、闘病中の経験から歯のケアには気を使っている。朝起きたらすぐに軽く歯を磨いてしっかりうがいをする。毎食後には入れ歯もはずして丁寧にブラッシング。月に1度はかかりつけの歯科医院で歯石を取る。「安心して任せられる先生なの」。医師との信頼関係もしっかり築いている。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2017年9月号掲載