めざせ8020 第17回

食べることは生きることの原点

年齢のせいで、口が渇くようになった、味覚が鈍くなった、という人がいます。いかにもありそうな話ですが、これらは加齢が原因とはいえません。むしろ、薬の副作用として現れる場合が多いものです。高齢になると、血圧や血糖などのコントロールのために薬をのむ人が増えるため、口の渇きや味覚障害などの副作用が高齢者全般の話として広がっているようです。

加齢による口の中の変化で、研究によってわかっていることはただ一つ、むせやすくなることです。私たちはモノを飲み込む時に、自然に息を吸い、息を止め、飲み込み、息を吐くという一連の動作を行っています。飲み込む時には咽頭(喉ぼとけ)が上がって咽頭蓋(気管のふた)が声帯をふさぎ、食べ物が気管に入らないようにします。この、喉ぼとけを支える筋肉が加齢によって衰えると、喉ぼとけは下がってしまいます。なかには頸椎2つ分も下がる人がいます。そうなると、飲み込む時に喉ぼとけが上がって気管のふたが閉まるまでの時間が長くなってしまうため、タイミングがずれて食べ物が気管に入り、むせてしまうのです。喉ぼとけ周りの筋肉を衰えさせないようにするには、下のイラストのような体操がおすすめです。1つ目は、あおむけに寝て、つま先を見るように頭を上げます。この時、鍛えようとしている喉を意識することが大切です。2つ目は、1〜2分うつぶせに寝ること。たったこれだけで、腹筋と胸 筋に体の重さが加わって鍛えられ、万一むせた時に食べ物を気管から吐き出させることができるようになります。

自分で歩ける人から、寝たきりで経管栄養の人まで、さまざまな段階にある高齢者が入所する施設で調査したところ、最も誤嚥性肺炎になりやすいのは、自分の口からは何も食べていない経管栄養の人たちであることがわかりました。そこで経管栄養の人の口中を調べると、カビによって薄い膜がはっていました。一日中ほとんど話すこともなく、食べたりもしないため、唾液による自浄作用が一切働かず、口中の細胞の新陳代謝も行われていないことが主な原因です。そこで口中をブラッシングなどできれいにすると、なかには目をあけたり、声を出したりする人も現れました。そうした人に、ひと口でも口から食べていただくと、免疫力がついてきたのか、誤嚥性肺炎は激減しました。

食べることは栄養をとる意味でも大切ですが、生きることの原点でもあります。それを支えるための口中のケアは大切です。とはいえ、歯磨きの仕方は十人十色。やりやすい方法で磨いてください。わからないことがあれば歯科医師に相談しましょう。

植田耕一郎

日本大学歯学部摂食機能療法学講座教授。東京都リハビリテーション病院、新潟大学などを経て現職。摂食・嚥下障害の機能改善が専門。

8020さんのご紹介:体操も ボランティアも 自然体で

岡原テル子さん

年齢:80歳 歯の数:23本

72歳の時に脳出血で倒れた岡原テル子さんは、8年たった今、毎週月曜日は健康体操、水曜と金曜はシニア体操、さらに週に1日は横浜市にある「こどもの国」でボランティアをしている。

「こどもの国」のボランティアはすでに13年前から続けている活動で、退院の3か月後から再開したという。草取りをしたり、イベントでは子どもたちの芋ほりを手伝ったり、後遺症を感じさせない活動ぶりだ。「一緒に暮らす娘が、車でこどもの国まで送ってくれるから、やらないわけにいかないでしょ」と楽しそうだ。

リハビリを兼ねて活動する岡原さんだが、暮らし方はいたって自然で、「朝は5時過ぎに起きて、庭の草取りとかしてますよ。好きなんですね」と笑う。「ガーデニングなんてほどではないけれど、玄関先に花を植えたり、自分ではけっこう満足してますね」と、かなりの腕前のようだ。さらに、野菜も育てていて、夏はトマト、キュウリ、なすなどの収獲が楽しみだという。

朝食は玄米に小豆を加えて圧力鍋で炊いたご飯が定番。煮物には昆布、お味噌汁には煮干しをだしとして使い、すべて食べきる。

歯の手入れは、柔らかめの歯ブラシでの歯磨きと歯間ブラシが毎日の習慣。柔らかめのブラシは歯科医師に指示されたことで、忠実に守っているのだそうだ。3か月に1度は歯科検診を受け、歯石を取る。「歯の痛みって知らないんです」と岡原さんはいう。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2018年10月号掲載