めざせ8020 第18回

肥満・メタボと関係する上下の臼歯

日本では、BMIが25以上の、いわゆる肥満といわれる人は男性で29.5%、女性で19.2%に上ります(※1)。BMIが25以上の人の生涯医療費は25未満の人より高いという調査がありますから社会的にも問題になっています。

ところで、歯が少ない人のほうが、肥満やメタボリックシンドローム(以下、メタボ)のリスクが高いということをご存じでしょうか。

このような研究はこれまでにいくつか報告されていますが、咀嚼能力(※2)に関与すると考えられる臼歯(きゅうし)部(奥の4本の歯。左右上下合わせて計16本)についてはまだ研究が行われていませんでした。そこで私たちは「歯科疾患実態調査」と「国民健康・栄養調査」の再分析を行いました。左右それぞれの上顎(あご)と下顎の臼歯が対になって噛み合っているかどうかに着目し、大臼歯が噛み合っていれば2点、小臼歯が噛み合っていれば1点として、9点以下、10・11点、そして全部そろっている12点の3グループに分け、肥満やメタボとの関係を調べてみたのです。この場合の歯とは、入れ歯やインプラントなど治療した歯も含んでいます。その結果、奥歯が全部そろっている人に比べ、少なくとも所々奥歯がなくて噛み合っていない9点以下の人のほうが、肥満やメタボの割合が有意に高かったのです(※3)。この研究では、上下の臼歯の対に着目しているため、その歯が実際に咀嚼能力に寄与しているかどうかまでは明らかになっていません。しかし、上下の歯がしっかりそろっていることは、肥満やメタボの予防につながると考えられます。

過去の研究結果と考え合わせると、噛むことによる刺激が脳の視床下部という部分に伝わり、それが満腹感を高め、結果的に食べ過ぎを防ぐという可能性を示唆しています。

また、歯の数が少なかったり咀嚼能力が低い人、あるいは肥満の人は甘いものや炭水化物を好む傾向がある一方、そうでない人は歯ごたえのある野菜や果物など食物繊維の多い食品を好むという研究との関連も考えられます(図参照)。

歯の状態によって、食事の選択肢は変わってしまいます。歯が少ないとやわらかくて食べやすいハンバーグを選ばざるを得ないけれど、歯がしっかりあればステーキでも食べられます。

「人生100年時代」といわれる今、長い人生を健康で暮らすためには、入れ歯なども含めてきちんと噛める歯を残すことが非常に大切です。それには、若い頃から、歯の治療はもちろん定期的に歯科医師の健診を受けておく必要があります。

※1 平成27年「国民健康・栄養調査」厚生労働省※2 咀嚼能力とは食べ物を口に入れてから飲み込むまでに必要な能力のことを指す。※3 Association between number of pairs of opposing posterior teeth, metabolic syndrome, and obesity.Odontology. 2018, https://doi.org/10.1007/s10266-018-0386-x

 

齋藤俊行

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授。歯周病や口腔衛生が専門で、九州大学が行っている福岡県久山町における疫学調査「久山町研究」や、長崎県五島市における「五島研究」に歯周病検診を導入。

8020さんのご紹介:元気の秘訣はイワシとヨーグルトと俳句

田原洋さん

年齢:80歳 歯の数:21本

「子どもの頃の弁当のおかずはメザシ1本」。九州・宮崎でそんな少年時代を過ごした田原さんは、今も地元の千葉・九十九里浜で獲れるカタクチイワシが好物だ。もちろん歯も丈夫で、若い頃は梅干しの種を歯で割り、なかの「仁」を食べるのが好きだったという。

78歳のとき、狭心症を発症してバイパス手術を受けてからは、健康のために週に3回程度の散歩をするようになった。少し離れたコンビニまで行き、面白い雑誌はないか物色し、気になったものを購入して帰ってくる。往復2㎞程度の散歩だが、現在の体調管理に一役買っている。

夕食は魚と肉が交互に食卓にのぼる。好き嫌いなく何でもしっかり食べる。毎日食べるものといえば、奥様手作りのヨーグルトで、これにシナモン、抹茶、干しぶどう、プルーンなど、その日の気分でトッピングを変えている。

子どもの頃から川柳をひねり出すのが好きだったという田原さんは、定年後、友だち作りと老化防止のため、月2回、市が実施する俳句同好会に参加するようになった。今では1000句ほどの作品がたまり、80歳を記念して私家版『傘寿記念自讃八十句』を制作中だという。「子どもや孫たちに、自分の歩んできた人生がわかってもらえる句を選んでいる」と、その完成を心待ちにしている。

「辞世の句ですよ」という作品を伺ってみた。

水涸れの湖底にまどふ蜻蛉かな

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2018年12月号掲載