NHKテキスト「きょうの健康」にて掲載された、「めざせ8020」の記事をお届けいたします。

めざせ8020 第1回

歯の数は健康の目安!80歳で20本以上残したい

一般的な成人に何本の歯があるか、ご存知でしょうか。答えは、親知らずを含めて32本、親知らずがなければ上下14本ずつの28本です。私たちは、この28本の歯を大切に一生使い続けなくてはなりません。ところが、高齢になると食事に制限が出てくるようになる人も増えてきます。この原因は、むし歯と歯周病によって歯を失うことです。おいしく食べるために歯は欠かせません。20本以上の歯があればほとんどのものを噛みくだくことができ、ほぼ満足できる食生活を送ることができるといわれています。そこで始まったのが「8020運動」です。
平成元年に、厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱したこの運動を国民運動へと発展させるため、平成12年に8020推進財団が設立され、以後大きな成果を上げてきました。運動が始まった当時、80歳で20本以上の歯が残っている人は7%程度でした。これが平成23年には約40%へと増加しています。しかもこの間、歯の数が少ない人の食生活の特徴も明らかになってきています。野菜・果実や肉類が減り、穀類が増えるなど、栄養摂取状態に偏りがでやすいのです。そして、歯を失うことは、循環器疾患や糖尿病などのリスクを高めるばかりか、要介護状態になりやすい、寿命も短縮する、といったエビデンスが示されるようになっています。
歯の健康運動は一朝一夕に効果が現れるものではありません。子どもの頃からの心がけがものをいいます。それをよく現しているのが、むし歯の数です。平成元年に12歳児の一人平均むし歯本数は4.3本でしたが、平成27年には0.9本に減っています

厚生労働省:標準的な健診・保健指導プログラム〈別冊〉
保健指導における学習教材「歯の数と食べられるものの関係」より

先進国の中でもきわめて虫歯の多かった日本の子どもたちから、むし歯は徐々に減ってきているのです。このような状況は、歯磨き剤に配合されたフッ化物の利用や甘味摂取量の減少など、日常的なケアがしっかり行われるようになったことが要因と考えられます。
とはいえ、楽観的な話題ばかりではありません。成人・高齢者のむし歯はまだまだ減っていませんし、55歳から64歳の人で中等度以上の歯周病にかかっている人は45%を超えているのが現状です。
歯は想像以上に健康にかかわっており、まさに、歯の数は健康の目安なのです。誕生日には自分で歯の数を数え、手帳にメモしておいてはいかがでしょう。一年に一度の習慣が、歯の大切さを意識させてくれることになるでしょう。

深井穫博

歯科医師。8020推進財団専務理事。国際歯科連盟(FDI)
高齢者の口腔保健タスクチーム委員長。深井保健科学研究所所長。『ヘルスサイエンス・ヘルスケア』編集長。

8020さんのご紹介:人のために活動することがパワーの源

松野忍さん

年齢:80歳 歯の数:22本

横浜市保土ヶ谷区にある130の老人クラブをまとめる連合会の会長として活躍する松野忍さんは、とにかく忙しい。連合会の会長として連日の会議をこなし、会報誌をつくり、カラオケ大会やダンス大会、手芸展などの企画・運営を行う。さらに、週に3回のラジオ体操に参加し、ボランティアとして体の不自由な人が外出する際の送迎活動も行っている。趣味も多彩で、老人会の仲間とのグラウンドゴルフや詩吟、民謡と幅広い。民謡ではコンクールに出場するほどだという。加えて、自宅近くの畑で野菜をつくり、地域の方々を誘っていも煮会を楽しむことも恒例行事となっている。
このパワーの源は、どこからわいてくるのか。それは、自分のためだけではなく人のために動き、多くの人から喜ばれることにあると松野さんはいう。もう1つ、何でも自分の歯で食べられることも大きい。イワシなどの魚は、頭から丸ごと食べるのが昔からの松野家の食習慣で、「口を閉じて噛めば骨まで食べられる」といわれて育ったのだそうだ。こうした食生活に、朝は腹筋50 回、最近はノルディックウォーキングも始めて、健康づくりは万全。老人会50 周年を迎え、若手の参加を増やすべく、松野さんの活動範囲はますます広がっている。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2016年11月号掲載

めざせ8020 第2回

健康寿命は歯で延ばす

日本人の平均寿命は、平成27年において男性80.79歳、女性87.05歳であり、世界でもトップクラスの長寿国となっています。しかし、寿命が延びればいいのかというと、そうとばかりはいえません。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」、つまり自立して健康に暮らせる”健康寿命“を延ばすことのほうが、私たちにとってはより重要なことといえます。健康寿命と平均寿命の差は、平成25年で男性約9年、女性約12年ですから、この差を少しでも短くできれば、介護が必要な期間を短くし、生活の質を高めることになります。 「ピンピンコロリ」は健康寿命の延伸で実現できるのです。
ところで、健康と深い関わりをもつのが食べ物です。ヨーロッパのいくつかの調査では、果物や野菜をとっている人は心血管系疾患などによる致死リスクが低下するという結果が発表されています。しかし、食べ物をしっかりとるためには、噛める歯がなくてはなりません。ここで興味深い調査結果があります。歯の数と栄養状態とは相関関係にある、あるいは歯を失うと栄養状態が低下するというものです。歯が抜けたままで生活していると、栄養状態が悪化し、さまざまな疾病を引き起こす可能性があるといえるでしょう。
それなら入れ歯を入れればよいということになりますが、入れ歯を入れても栄養状態は改善しないという報告があります。高齢者の場合は、入れ歯によって咀嚼能力を向上させることと合わせて、栄養士による栄養指導によって栄養状態を改善させる必要があると考えられます。
もう一つ、歯と健康の関係で見逃せないことがあります。それは、歯はただものを噛むだけの道具ではなく、口の中の感覚器官として働いたり、口の中の食べ物の形状を脳に知らせたりするなど、脳や中枢神経と密接に関わる咀嚼システムの一部であるという点です。噛むことは、いわば脳へ刺激を与えて脳の健康維持にも役立っているのです。
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歯と寿命についての調査があります。40歳以上の宮古島の住民を対象にした15年間にわたる調査で、80~89歳の調査期間中の生存率では機能歯(調査開始時の使える歯の総数) が10本未満の群と10本以上の群を比較すると、10本以上の群において、男性では約2倍、女性では約1.5倍の生存率となりました。歯の数は寿命とも関わっていることを示すものといえます。
高齢になると、つい歯の手入れを怠りがちになりますが、1本でも多く歯を残すことができるようケアをし、もしなくした場合には入れ歯によって咀嚼機能を保ちながら適切な栄養をとることを心がけていただきたいと思います。もちろん、適度な運動も忘れないようにしましょう。

水口俊介

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授。日本咀嚼学会理事長。
全部床義歯において、コンピューターを活用した診療支援システムの研究開発に携わる。

8020さんのご紹介:健康の秘訣はグラウンドゴルフと規則正しい食事

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輕部忠志さん

年齢:80歳 歯の数:26本

月に1、2回は山歩きに行くという輕部忠志さん。
手放せないのはカメラだ。高校生のときにカメラにはまり、今は18人の会員を擁する写真同好会のまとめ役として活躍している。山を登ってベストスポットまでたどり着くには足腰が丈夫でなければならないこともあり、健康作りには余念がない。グラウンドゴルフは月曜日から金曜日まで、お天気がよければ欠かさず参加している。8ホール、4ラウンドはかなりの距離を歩くことになる。立ったりしゃがんだりの動きもよい運動になるという。さらに、土曜日と日曜日は、奥さまと2人で6キロの散歩と決めている。

これだけ体の維持・管理に気をつけている輕部さんだが、食事に関しては関心がない。むしろ、「食事は家内との戦いですよ」という。輕部さんは大の野菜嫌いなのだ。仲の良い2人も、食事中は野菜を間に「食べて」「いやだ」の喧嘩が始まるらしい。では、80歳で26本もの歯を保ってきた秘訣は何かと聞くと、「半年に1回の歯の健診は欠かさないですよ。何もなくても、必ず歯医者さんでみてもらってます。それが26本につながっているのかもしれないですね」という。規則正しい食生活も見逃せない。毎日、食事は朝7時、昼12時、夜18時30分と決めている。運動と規則正しい食生活は輕部さんの健康維持の要となっている。

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NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2016年12月号掲載

めざせ8020 第3回

歯周病は高齢になっても口内ケアで改善する

歯周病は世界中で最も蔓延している感染症だといわれています。日本の成人でも77%が歯周病にかかっていることがわかっています(平成23年「歯科疾患実態調査」)。歯周病は歯垢(プラーク)の中の細菌によって歯肉に炎症が起きる病気です。治療をせずに放置していると、歯を支えている骨を溶かしてしまい、やがて歯が抜けてしまいます。
歯周病菌は子どもの頃はほとんどいないのですが、18歳くらいになると感染します。感染経路は唾液感染です。他人の唾液がキスや食べ物・飲み物を介して口の中に入って、歯周病菌がうつります。歯周病菌が口の中に住み始めたからといって、すぐに歯周病になるわけではありません。健康なときには菌の病原性と歯茎の抵抗力のバランスがとれているので、とくに問題は起こりません。しかし、歯垢がたまって歯周組織の抵抗力が弱まったり、喫煙や栄養不足などによって、歯茎に炎症が起きます。すると歯茎の上皮細胞がはがれて毛細血管が露出してしまいます。ここに潰瘍ができ、何かの拍子に出血してしまいます。
「出血は歯の磨きすぎ」「加齢のせい」と思い込んでいる人も多いのですが、そうではないのです。
この出血が大問題です。というのも、歯周病菌は血液に含まれる赤血球のヘモグロビンを食べて増殖します。出血がなければ増殖できないので、それほど心配する必要はありませんが、出血することで歯周病は一気に進行してしまいます。出血したら、それは歯周病が進行している証拠ですから、すぐに歯科医院を受診してください。歯石(歯垢が石灰化したもの)を取って炎症を改善させることでしか、治療はできません。歯石を取るだけで、歯茎の炎症は回復に向かいます。歯周病は治らないと思われていた時代もありましたが、今や歯周病の治療はそれほど難しいことではありません。
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また、もう一つ大切なことがあります。歯周病によって歯茎の露出した血管から歯周病菌が血液にのって全身に運ばれてしまい、全身の健康を損なってしまうこともあるのです。たとえば、アルツハイマー病や糖尿病、関節リウマチなどの病気に関係していることがわかっています。
このような点からも、不都合がなくても定期的に歯科を受診したいものです。3か月に1回の受診ができればベストです。また、自宅でのケアにはデンタルフロスや歯間ブラシなども使って、1日に1回は徹底的に歯を磨いてください。歯科医師や自宅でのケアで口の中の歯周病菌のコントロールをする。それが元気な”8020さん“になる秘訣といえます。

天野敦雄

大阪大学大学院歯学研究科長・歯学部長。
口腔感染症の感染制御、予防歯科学、病原細菌の細胞内輸送を研究。日本歯周病学会、国際歯科研究学会などに所属。

8020さんのご紹介:詩吟でストレス発散。丸干しやチーズは欠かさず食卓に

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岡部文雄さん

年齢:81歳 歯の数:22本

半年に1回は何もなくても、歯科医に通い歯石を取ると同時に、口の中の状態をみてもらっているという岡部さん。現役時代はあまり歯の健康に関心はなかったが、リタイアしてからは朝晩の歯磨きは丁寧にするようになったという。現在残っている22本の歯でなんでも不自由なく食べられ、食事もおいしいとすこぶる元気だ。
奥様といっしょに週に1回通っている詩吟は、始めて4年になる。よく通る声を出すためには、お尻辺りの筋肉から腹筋も使い、全身運動になる。練習後は疲れを覚えるほどだが、大きな声を出すことで心身共に爽快になるのが魅力だという。
岡部さんの1日は、真向法というストレッチのような体操で始まる。しっかり体をほぐしたら、次にゴルフの素振りを30分。これを毎日欠かさず行う。「ゴルフは月に3回から4回やっていて、週に2回は練習に行くんですよ。でも、最近は体力が衰え、ショートパットを入れるのにも、今までなら必要なかった力がいることを自覚するようになって」という岡部さんは、体力をできるだけキープし、健康であろうとする努力を惜しまない。若い頃から続けている水泳も、月に2~3回はプールに通って体力維持に役立てている。
奥様も食事には気を使い、ヨーグルトは自家製。丸干し、ひじき、じゃこ、チーズなどは欠かさないという。

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NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2017年1月号掲載