めざせ8020 第21回

お口のなかのケアが認知機能の低下予防に

認知症の患者さんは一般的にいって口のなかの状態がよくありません。例えば、歯周病が多い、虫歯が多い、噛み合わせが悪いなどです。今までは、認知症だからこのような状態になると考えられてきました。

ところが最近になって、逆に、口のなかの悪い状態が認知機能に影響を与えることが少しずつわかってきました。例えば、重度の歯周病と認知機能低下には関係があると報告され、歯周病の原因となるジンジバリス菌という菌がアルツハイマー病の患者さんの脳内に検出されました。このため、ジンジバリス菌が脳の炎症を引き起こして認知症の悪化を招くと考えられてはいたものの、その詳しいメカニズムまではわかりませんでした。

そもそも、アルツハイマー病は一般的に25年ほど前からその兆しが表れるといわれています。当初はアミロイドβという異常なタンパク質が脳にたまり始め、発症の15年前からは脳の記憶を司っている海馬が少しずつ萎縮し始めます。5年前にはアミロイドβの蓄積がピークとなり、海馬の減少も進んでいるため軽い物忘れが始まります。アルツハイマー病は、このように長い時期を経て発症します。

そうした背景をもとに、九州大学では歯周病菌が血液を介して脳に悪影響を及ぼしているのではないかという仮説をたて動物実験をしました。すると、歯周病菌に由来するカテプシンBというタンパク質がアルツハイマーの原因の一つになっていることが証明されました。動物実験の段階ではありますが、カテプシンBを抑える薬ができれば、もしかしたらアルツハイマーを予防できるかもしれないと期待されます。

とはいえ、このカテプシンBというタンパク質は歯周病菌によって増えるものですから、まずは歯周病を改善させること、つまり口のなかのケアをしっかりすることが認知症予防につながると考えたほうがよいでしょう。

私たちの研究ではありませんが、歯の数が少ないと認知症を発症しやすいというデータがあります。2003年に愛知県の65歳以上の健常者を対象に、4年間にわたって認知症が発症するまでの日数を調べたものです。歯がなくて入れ歯も使っていない人は歯が20本以上ある人と比べ1.9倍、あまり噛めない人はなんでも噛める人と比べ1.5倍、かかりつけの歯科医師がいない人はいる人に比べ1.4倍認知症になりやすいという結果が出ています。

細菌のコントロールはもちろん、機能面の改善も含めて、口のなかをよい状態に整えれば、認知症の発症を遅らせたり、予防にもつながる可能性があります。しっかり噛むこと、そして歯みがきなどの口のなかのケアはとても大切です。

柏崎晴彦

九州大学大学院高齢者歯科学・全身管理歯科学分野教授。日本口腔外科学会専門医・指導医。がん治療や移植などの高度急性期医療における口腔管理が専門。

8020さんのご紹介:夢中になるとあっという間

奥戸木ノ實さん

年齢:80歳 歯の数:25本

仲間とコーラスを楽しむ時間、自分と向き合って歌を詠む時間、奥戸木ノ實さんの毎日はメリハリがきいている。

高校生のころからコーラス部に入っていたという奥戸さんは、今も女声合唱団で歌っている。同じマンションに住む方が合唱団のピアニストで、「毎回、車で連れて行ってくださるの。楽をさせていただいて」と感謝を忘れない。

一方の短歌は、ある日、歌人の話を聞く機会に恵まれ、「この先生についていこう」とひらめいたのだそうだ。歌集への投稿は、2か月ごとに10首。「一通り書いてみてから、自分自身に何がいいたかったのかな、と聞くのが楽しみ」。自分との対話が始まると、「時間が経つのを忘れてしまう」と奥戸さん。こちらもすでに40年以上のキャリアになる。

健康を維持し、いつまでも歩けるようにと、できるだけ買い物にでかけ、庭に咲く花の世話にも余念がない。「食事で心がけていることなんて、なにもない」とのことだが、野菜中心の食生活は長年の習慣になっている。毎食後の歯磨きも、「若いころ、歯医者さんにアドバイスされて始めたわね」と、いたって自然。今は、思いついたときに近所の「とても信頼している先生」のところで、歯石取りなどのケアをしてもらっている。つい最近も歯がぐらつき始めて受診したところ、「大切にしましょう」といわれたそうだ。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2019年6月号掲載