【DOCTOR-ASE 20号(2017年1月号)より転載】
歯科医療は、歯の治療だけを扱うものではありません。口腔内の清潔を保ち、様々な合併症を予防する口腔ケアも、歯科医療が専門とする分野です。今回は、口腔ケアの分野で医科と歯科の連携に積極的に取り組んでいる足利赤十字病院の取り組みについて、院長の小松本悟先生にお話を伺います。

リハビリテーションと歯科

――足利赤十字病院では、どのような形で医科と歯科の連携が行われているか、お聞かせいただけますか?

小松本(以下、小):
まずは私たちの取り組みの経緯からご説明しましょう。医科と歯科の連携に取り組むきっかけになったのは、2011年の新病院開院の際に作った回復期リハビリテーション病棟に、咀嚼や嚥下を専門とする馬場尊先生が部長として赴任されたことです。
実は私も、昔は歯科との連携を意識してはいませんでした。ただ、神経内科医として、脳卒中の患者さんが誤嚥性肺炎を起こして入院が長引くケースが多いことは以前から気になっていました。馬場先生は、脳卒中後の誤嚥性肺炎には、嚥下の問題が深く関わっており、適切な口腔ケアが必要だと指摘しました。もともと脳卒中の患者さんは片麻痺から嚥下障害を起こしやすいのですが、それに加え、挿管していて口腔ケアが適切になされていないケースも多かった。結果、細菌が肺に流れ込み、誤嚥性肺炎が起きやすくなっているというのです。そこでまずは東京医科歯科大学から1名の歯科医師に来ていただき、脳卒中の患者さんへの口腔ケアに取り組み始めました。

口腔ケアで誤嚥性肺炎が減少

――口腔ケアに力を入れたことで、どのような変化が起きましたか。

小:
2011年には、脳卒中の患者さんが誤嚥性肺炎を合併する割合は13%でした。しかし取り組みが始まると、その割合は10%、8%と減少していきました。この成果を得て、病院全体として口腔ケアに力を入れる価値があると実感しました。
今は、脳卒中に限らず入院患者の多くが高齢者です。高齢者は嚥下に問題があったり、ADL(日常生活動作)の低下によって口腔内の状態が良くない方が多く、肺炎を起こしやすい。また、がんの化学療法や放射線療法はもちろん、緩和ケアを受けている患者さんなど、様々な疾患の患者さんの口腔ケアに取り組むことにしました。

――本格的に医科歯科連携に力を入れ始めたのですね。

小:
はい、リハビリテーション部門の歯科医師の数も増やしました。また、歯科衛生士も巻き込んで、馬場先生のもとで口腔ケアの指導の方法と、嚥下のグレードについての医学的なアドバイスを受けるようになりました。摂食・嚥下の分野は非常に複雑で、それを専門とする職種と連携しないとうまくいきません。そこで、リハビリや緩和ケア、がん化学療法のチームの中に、歯科を専門とするメンバーを入れるようにしました。

口腔ケアチームの動き

――口腔ケアを担当する人たちは、どのような形で活動しているんでしょうか。

小:
口腔ケアチームが定期的に病棟を回ることで、医師が特に依頼しなくても、口腔ケアが必要な患者さんをピックアップしてケアできる仕組みになっています。歯科医師や歯科衛生士が病棟の看護師に口腔ケアの方法を指導して、軽症の患者さんについては看護師が口腔ケアを行うこともできるようになっているため、現在は、処置が専門的で難しい患者さんだけ、歯科医師や歯科衛生士が関われば良いようになっています。また、緩和ケアチームのような、院内をラウンドするチームの中に歯科医師が入って一緒に回るという形が定着しています。このような取り組みの結果、脳卒中後の誤嚥性肺炎の発生率は2014年度には4・4%にまで低下し、大きな成果を得ることができました。

患者さんが喜んでくれる

――患者さんのQOLの向上にもつながっていそうですね。

小:
口腔の機能が低下して口から食べることができなくなった患者さんも、歯科が関わることで食べることができるようになり、ADLやQOLが改善した例が多くあります。最後まで自分の口から食べることを望まれている患者さんやご家族は多いですし、様々な病棟から喜びの声を頂いています。その声が担当医にも届くことで、院内全体で取り組みに対する肯定感が高まっています。やはり患者さんが喜んでくださることが、この仕組みが長続きしている理由の一つなのだろうと思います。

今後に向けて

――院内で口腔ケアを行うだけでなく、退院後のケアにつなげていく必要性もあるように感じます。

小:
はい、院内の医科歯科連携を退院後につなげていくことが重要だと思います。現在は、開業医の先生方に向けて、地域の歯科の先生による講習会が定期的に行われています。エビデンスを提示しながら丁寧に伝えてきたことで、徐々にこの地区の開業医の先生方には口腔ケアの大切さがご理解いただけてきていると感じます。また、かかりつけの歯科医師がいない患者さんの場合、地域歯科医師会を通じて紹介するシステムも作られており、4年間で377人の患者さんを紹介してきました。

――今後、このような取り組みが広がっていけば良いですね。

小:
高齢の患者さんや、がんの患者さんが多い時代ですから、これからは、医科と歯科の連携はますます重要性を増していくと思います。とはいえ小規模な病院が始めるのはリソースの面から難しいところもあるでしょうから、最初に取り組んで、成果を発信していくのは我々のような中核病院の責務だと思います。
医学生の皆さんも、なかなか歯科医療や歯科の学生さんと関わる機会はないかもしれません。少しでも興味があれば、医科と歯科の連携の重要性を感じるためにも、見学に来ていただければ嬉しいですね。
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今回お話を伺った先生
小松本 悟先生

足利赤十字病院 院長

DOCTORASE【20号(2017年1月号)】 シリーズ連載 / 医科歯科連携がひらく、これからの「健康」より

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