めざせ8020 第23回

8029(ハチマルニク)で健康寿命を延ばそう

80歳になっても20本以上の歯があれば、楽しく充実した食事ができる。日本歯科医師会が行っている「8020運動」は、いつまでも自分の歯でおいしく食べるために歯の手入れをしようという運動です。1989年から始まったこの運動の達成率は、今や50%を超えています。

そこで、千葉県歯科医師会では歯の数だけでなく口腔機能も維持してしっかりタンパク質をとろうという「8029運動」を始めました。「29」とはもちろん肉のこと。

私たちは誰もが”ピンピンコロリ“を願っています。そのためには健康寿命を延ばすことが第一です。健康寿命を延ばすためには良質なタンパク質をとる必要があります。高齢になって食事の量が減ると、エネルギー量や体の細胞をつくっているタンパク質が不足することがあります。こうなると、栄養不足になって筋力が衰え、運動機能が低下し、社会参加も減って老化がどんどん進行してしまいます。

最近、「フレイル」という言葉をよく聞くようになりました。これは徐々に心身が弱り、要介護に近づくことをいいます。フレイルになる要因は3つあるといわれています。意欲が低下するなどの精神的要因、低栄養や口腔機能の低下などの身体的要因、閉じこもりや孤立などの社会的要因です。フレイルは口の中でも起こります。噛む・飲み込む・しゃべるといった口の機能の衰えを「オーラルフレイル」といいます。オーラルフレイルを予防し、良質なタンパク質を食べられるようにする。これが「8029運動」の目標です。

それでは、一日にいったいどれくらいのタンパク質をとればいいのでしょう。タンパク質の一日の推奨摂取量は体重1㎏当たり1~1・2gとされています。体重50㎏であれば50~60gのタンパク質をとる必要があります。これをもし牛肉だけでとろうとすると、約300gの牛肉を食べなければなりません。牛肉100gに含まれるタンパク質は約17~20gですから、このようにたくさんの量になってしまうのです。したがって、肉に限らず魚や卵、牛乳などさまざまなものからバランスよくタンパク質をとるようにしたいものです。

歯周病や虫歯、歯が抜けたままだったり、入れ歯が合っていない状態ではしっかり噛むことはできません。タンパク質を含む食品をおいしく食べるためにも、早めに治療を受けましょう。また、飲み込みがしにくくなったり、噛みにくくなったときも歯科医師を受診していただきたいと思います。

砂川稔

千葉県歯科医師会会長。中央鉄道病院口腔外科、浜松鉄道病院、浜松医科大学口腔外科を経て砂川歯科袖ケ浦医院開院。

8020さんのご紹介:いくつもの大病を経てゆっくりのんびり

藤谷秀夫さん

年齢:80歳 歯の数:26本

1か月に1回は歯医者で歯のメンテナンスをしているという藤谷秀夫さん。「面倒なんだけどね」といいながら、もう6年ほど続いているそうだ。ただし、普段の歯磨きはサッサと終わらせようと力を入れすぎて出血することも。奥さまに「やりすぎでしょ」と注意される。

15年前に腎臓がん、その後、脳梗塞、胆のうの摘出と大病を経験してきた。

薬のために納豆やグレープフルーツなど食べられないものがある。また、脂っこいものや生ものは体が受けつけなくなっている。ときどき食事を残すと、ここでも奥さまから怒られるという。しかし、肉類は大好物。特にスジ肉が好きで、奥さまはわざわざ肉のおいしい店まで電車に乗って買い出しに行く。奥さまの支援は大きい。

3日に1回程度、近くの公園を1周し、近所のリハビリ型デイサービスにオープン直後から週1日3時間休まず通っている。「運動目的で始めたけど、運動よりもバカ話をして帰るのが楽しいね」。

70歳近くまで室内装飾の仕事をしていたため、家の修繕はお手のもの。傷んだところを見つけては、大工仕事、左官仕事となんでもやってしまう。ただ、天気がよいと光がつらく、疲れやすい。「テレビを見るのも疲れるし、見ていると家内に姿勢が悪いといわれるし…」とこぼしながらも、奥さまの支えに感謝してリハビリに励む藤谷さんだ。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2019年10月号掲載