めざせ8020 第24回

ひと口の量が噛む回数に影響

「健康のためにはよく噛んで食べなければ」とわかっていても、気がつくといつも通りに食べてしまっていた。無意識のうちに行っている”噛むこと“を意識化するのはなかなか難しいものです。

けれど、そうしたいつもの習慣が介護をする場合にも影響するとなると、話はちょっと違ってくるのではないでしょうか。

私たちは特別養護老人ホームで、食事の介助をする人(介助者)自身のひと口の量や食べるペースが食事介助にどのように影響するかを調べました。ご飯、お粥、ゼリーの3つの食べ物について、介助者自身が食べる場合と、食事介助が必要な人に食べさせる場合において、それぞれの食べ物をスプーンですくったひと口分の重さと、口に運ぶ時間の間隔(食べる?食べさせるペース)を測りました。結果は、自分のひと口の量が多くペースも速い介助者は、介助が必要な人に食べさせるときもひと口の量が多く、ペースも速いことがわかりました。身についてしまった習慣は、こんなときにも顔を出すようです。

人にはそれぞれ、自分の口で処理できるちょうど良いひと口の量がありますから、一度にたくさん食べるのは大変です。また、次から次に口に運ばれるのもつらいものです。施設はもちろん、自宅で高齢者の食事のお世話をしている人は、自分の食習慣をちょっと見直してみるとよいかもしれません。

私たちは、ひと口の量と噛む回数の関係を明らかにするという実験も行いました。

ご飯とリンゴをいつも通りのひと口、その半量、ひと口の1.5倍というように量を変えて、そのときどきの噛む回数を測りました。すると、ひと口の量が多くなるのに伴って噛む回数は増えていきました。ところが、これを重量あたりの噛む回数に換算すると、逆に減ってしまうのです(図参照)。

これはご飯もリンゴも同様の結果でした。ここからわかることは、ひと口の量が少ないほうが、よく噛んで食べるということです。自分はよく噛んでいない、ひと口の量が多いと思っている人は、ぜひ意識して口に入れる量を減らしてみてください。噛む回数は自然に多くなるはずです。

これらの実験は、結果を聞けば当たり前のように感じるかもしれません。しかし、無意識のうちに行っている食べることと噛むことを、”ひと口“という身近な量で観察してみると、自分の食習慣を客観的に見直すことができるように思います。よく噛むことには、食べ物を細かくして「おいしさ」の物質を口のなかに広げたり、食べ物と唾液を混ぜて飲み込みやすくするなどさまざまな働きがあります。一度、自分のひと口の量を家族や友人と比べてみてはいかがでしょうか。

中道敦子

九州歯科大学歯学部口腔保健学科教授。専門は口腔保健学、健康科学。同大学の古株彰一郎氏と骨格筋と旨味受容体の関係について研究。

8020さんのご紹介:飲み込んじゃ、もったいないよ!

神山徹さん

年齢:82歳 歯の数:29本

60歳まで経理畑を歩んできた神山徹さんは、定年後、ひょんなことから寺男として仕事をすることになった。「寺にはいろんな人が来るんだけど、墓参りして帰るときはみんなニコニコしている。ホッとするのかな。お寺もこういう点で必要だと思ったね」。

そんな神山さんも70歳で自由の身になった。

80歳をすぎ、週に1回リハビリテーション型デイサービスでのマシントレーニングを始めた。「健康のために特別なことは何もしないんだ」とのことだが、奥様が買い物や映画に行くときは、一緒に行く。ちなみに、奥様の反応は「来たいならどうぞ」。外界にふれないと引きこもりになってしまうからと、思いついたときにはコミュニティバスに乗って近くの町に行くこともある。自己申告と違い、かなりの活動派だ。

神山さんはかたいものが大好き。「丸干しのメザシなんかは食べた気がするね」。よく噛んで食べることは習慣になっていて、口のなかで液状になるまで噛むのは当たり前のことだという。「飲み込んじゃ、もったいないよ」。

体重管理のために朝食は食べないようにしているが、理想の体重69キログラムにはなかなか届かない。

1か月に1回は必ず歯医者に行き、メンテナンスをしている。口のなかの手入れとして、朝晩の歯磨きも欠かさない。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2019年12月号掲載