めざせ8020 第25回

全身の筋肉作りに味覚受容体が影響?

味には甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類があります。「これらの味を感じるのは舌だ」と誰もが思っていますが、実は舌だけではないことがわかっています。味を感じるのは「味覚受容体」というセンサーで、舌以外にも全身の臓器や筋肉にも存在し、栄養状態を感知したり消化機能を調整するなどの働きをしているのです。

そうしたなかで、うま味を感じる受容体は特に筋肉に多いのではないか、と私は考えています。

「筋肉の中のうま味受容体がうま味であるアミノ酸を認識すると、筋肉細胞をどんどん増やそうとするが、受容体が働かなくなると筋肉が減ってしまう。人それぞれ受容体の感受性が違うことから、うま味受容体が敏感な人は筋肉量が多くなるのではないか」というのが私の仮説です。

近年はサルコペニアがしばしば問題になります。サルコペニアとは、加齢や疾患によって筋肉量が減ってしまい、身体機能が落ちてしまう状態です。全身の筋力が低下すると、転倒のリスクは7倍にも増加するといわれています。逆に、筋肉が多いと、さまざまな疾患に対する罹患率は低いといいます。また、身体機能の低下は活動量の低下につながり、ひいては低栄養に陥る可能性も高まります。

一方で、うま味受容体が少なかったり、うま味受容体に障害が生じたりしていると、食べ物がおいしくなくなり、食事量が減って低栄養になってしまう可能性もあるのではないかと思われます(図参照)。サルコペニアから低栄養への経過は、うま味受容体が影響しているのかもしれません。

現在、私たちは、小腸におけるうま味受容体の働きについても研究しています。うま味受容体は細胞の入れ替わりに必要ですから、細胞の入れ替わりが激しい小腸では、うま味受容体がたくさん存在しているはずです。うま味受容体が少ないと細胞がうまく入れ替わることができないと考えられます。小腸の細胞が傷んでいるマウスで、うま味受容体があるマウスとないマウスにグルタミン酸といったうま味を摂取させると、受容体があるものは小腸粘膜が回復するのに、受容体がないものは回復しないという結果が出ています。

高齢期の健康維持には歯の健康も大切ですが、おいしく食べられるうま味受容体の働きも不可欠です。よく噛んでたくさんの唾液を分泌すれば、うま味の感受性を高めてうま味成分をたくさん取り入れることで筋肉増加に働きかけることができるかもしれません。私たちの研究が、高齢期のサルコペニアやフレイルの改善に役立つことが解明されれば、大きな意味をもつものになると考えています。

古株彰一郎

九州歯科大学分子情報生化学分野教授。研究分野は骨、骨格筋、再生医療など。骨・骨格筋代謝と味覚受容体の研究に携わる。

8020さんのご紹介:唾液が出ずに口内の状態が悪化

平田正子さん

年齢:85歳 歯の数:25本

2か月に1度はかかりつけの歯科医院で歯のメンテナンスをしているという平田正子さん。できるだけ歯を抜かないという医師の方針のもと、歯石を取ったり、虫歯を治療したりして25本の歯を大切にしている。

毎日の歯の手入れは朝晩の歯磨きといたってシンプルだが、普通の歯ブラシ以外に毛先が小さな三角形の歯ブラシで歯間や奥歯を磨いている。「早め早めの治療と、このブラシが歯の健康にいいのかも」。

5年ほど前、ある日突然、唾液が出なくなってしまった。口の中がカラカラに乾き、食べ物を飲み込むことができず、重湯を口にするのが精一杯。話すこともままならなくなった。「唾液がどれだけ大切なものかわかりました。口の中の状態も悪くなって、虫歯になりやすくなるんですよ」。あちこちの医師を受診したものの決定的な治療法はなく、今日まで自分なりに改善策を探ってきたという。現在も油断すると乾いてしまうため、毎朝唾液腺のマッサージは欠かさず、水分も意識してとるようにしている。

絵手紙を書いたり、書を書いたりと平田さんの趣味は豊かだ。「努力しないでできることは、やってもつまらないでしょ。だから、苦手だった絵や書道を習ったの」とチャレンジ精神旺盛で、今ではどちらもベテランの域。週に1度の運動で、体調管理にも気を配っている。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2019年2月号掲載