【#26】めざせ8020 ~歯が元気なら体も元気~

めざせ8020 第26回

原因不明の歯痛に悩まされていない?

歯が痛くて歯科医師に診てもらったのに、虫歯でも歯周病でもないと診断された。そんな原因不明の歯痛を「非歯原性歯痛」といいます。非歯原性歯痛は、その名の通り歯や歯肉に原因がないにも関わらず歯に痛みを感じる状態で、それほど珍しいことではありません。しかし、10年ほど前までは正式な歯痛の分類には入っておらず、診断法や治療法についての情報も少なく歯科医師の認知度も低いものでした。今では治療のガイドラインもつくられており、歯科医師にも認知されるようになっています。

非歯原性歯痛には、表にあるような原因が挙げられます。もっとも多いのが、側頭筋や咬筋などの咀嚼筋が疲れてしまい、筋肉のなかにしこりのようなものが生じた結果、そこから痛みが発生して歯痛を感じるようになるものです。痛みが続くため歯原性の歯痛と間違われやすく、不要な治療が行われる可能性があります。この場合は、痛みのある筋肉を安静にする必要があります。硬い食べ物を控えたり、痛みがある部分をマッサージするなども効果的です。

次に多いのは、いわゆる神経痛です。なんらかの理由で神経が過敏となり、いつもは痛みを起こさないような小さな刺激で歯痛が発生することが原因です。多くの場合、理由なく突然痛みはじめ、数秒から数分の強い歯痛が起こります。

持続性・神経障害性歯痛も神経痛の一種です。これは2つに大別され、ひとつは歯の神経を抜いた後に痛みが長引く場合です。歯や歯肉の神経が傷つき、正常な痛みの情報を脳に伝えることができずに、歯や歯肉を触っただけでピリピリ・ジンジンとした痛みを感じます。もうひとつは、帯状疱疹の初期症状として現れる痛みです。

代表的な非歯原性歯痛を3つ説明しましたが、これらは虫歯や歯周病の治療をしても治まることはありません。逆に、不要な歯の治療をしてしまうことで患者さんが不利益を被ることもあり得ます。まずは原因となっている病気を判定することが肝心です。歯痛で歯科医師を受診するときには、歯の症状はもちろん体の状態についても医師に詳しく伝えることが大切です。

松香芳三

徳島大学大学院医歯薬学研究部 顎機能咬合再建学分野教授。歯科補綴学、口腔顔面痛の専門医。日本口腔顔面痛学会では「非歯原性歯痛診療ガイドライン」の作成にあたる。

8020さんのご紹介:毎日のケアは3回の歯磨きと、夜の歯間ブラシのみ

吉川悦子さん

年齢:81歳 歯の数:26本

小学6年のときに歯科医師から矯正をすすめられ、歯を4本抜いた。以来、吉川悦子さんは一本の歯も失っていない。「あのとき抜いていなければ30本あったかもね」。毎日のケアは3回の歯磨きと、夜の歯間ブラシのみとのこと。

健康自慢だった吉川さんだが2年ほど前に、道路にはみ出していた他人の自転車を整理しようとして転倒し、そのはずみで大腿骨を骨折してしまった。そのため、今も水曜日はリハビリテーション施設に通っている。さらに、月曜日はポールウォーキングのサークルに参加。行き帰りも含めれば3時間程度歩いている。火曜日は近くの民家で行われるボランティア活動に参加。得意の料理の腕を活かして子どもたちに食事を提供している。料理のアイデアを得るための努力は欠かさず、NHKの「きょうの料理」を録画しておき、夜中にまとめて再生。参考になるレシピがあればメモをとって、自分のレシピにアレンジする。「料理を考えたり、若い人と話すのはボケ防止になるかな、と思っているのですが、どうかしら?」。

若い人たちといると、最近の世相がわかってとても勉強になると吉川さんはいう。「子どもとの接し方などは、私が若かったころとはまったく違うけれど、時代が変われば当たり前ですからね」。吉川さんの柔軟な姿勢こそ、若々しさの秘訣といえそうだ。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2019年4月号掲載