めざせ8020 第27回

歯周病菌は全身をめぐる

 歯周病なんて、中高年になれば誰にでもあると、のんびり放置してはいないでしょうか。

 歯周病は歯茎だけの問題ではなく、2つの大きな問題を抱えています。ひとつは動脈硬化やがん、認知症などさまざまな病気の原因のひとつになること、もうひとつは歯を失って噛むことができなくなるために、低栄養を招いてますます健康を害してしまうことです。

 歯周病の原因となる歯周病菌は10種類ほどあり、これらは歯と歯茎のすき間にできた歯周ポケットから血管のなかに侵入し、体中のあらゆる臓器をめぐります。そして、何かのきっかけで慢性炎症を起こします。たとえば、歯周病菌のジンジバリス菌は血管の細胞のなかに入り込もうとする性質があるため、これが引き金になって血管の細胞内で慢性炎症を引き起こします。その状態が続くと、動脈硬化になってしまいます。

 歯周病菌はがんの発症リスクも高めます。30年ほど前まで、細菌はがんの発症には関係がないと考えられていました。しかし、ピロリ菌が胃がんを発症させることが証明されて以来、細菌が遺伝子に影響を与えることがわかってきました。最近では、大腸がんの患者さんの便のなかにフソバクテリウム・ヌクレアタムなどの歯周病菌が多く存在しているという研究が発表され、歯周病菌のがん発症リスクの高さに注目が集まりました。

 アルツハイマー型認知症の人の脳にはアミロイドβという神経細胞を壊してしまうたんぱく質が蓄積されます。このアミロイドβは、ジンジバリス菌の内毒素が脳内に多いほど多く蓄積することがマウスの実験でわかっています。

 歯周病菌が体全体に及ぼす影響は非常に大きく、それだけに健康を保つには歯周病の改善が重要であることがわかります。

 もうひとつの問題である噛めなくなる点については、容易に想像がつくでしょう。歯周病が悪化して歯を失うと、噛めない食品が増えて、栄養が偏ります。また、食事の量が減って栄養不足になってしまうこともあります。

 一方で、歯周病の改善には歯を支える周囲の組織(歯周組織)の再生が必要です。これには必須アミノ酸が欠かせません。ところが、肉や魚などが十分にとれない状態では必須アミノ酸がつくられず、細胞の代謝ができないためにますます歯周病が悪化してしまうという悪循環に陥ってしまいます。

 歯周病を予防するためには、毎日の歯磨きとデンタルフロスの使用を基本に、3か月に一度は歯科医院で歯のクリーニングをし、歯周病菌が住みにくい口内環境にリセットするとよいでしょう。

花田信弘

鶴見大学歯学部探索歯学講座教授。歯周病と生活習慣病の関係、歯と全身の健康を守るための栄養学などについて研究。

8020さんのご紹介:毎日欠かさない小魚の酢漬け

大森道子さん

年齢:83歳 歯の数:28本

 3か月に一度はかかりつけの歯科医院で歯のメンテナンスをしている大森道子さん。そのたびに、歯科衛生士さんから磨き残しの指摘を受けたり、ブラシの使い方の指導を受けたりするのが、歯の健康に気をつかう動機になり、よい効果をもたらしているという。

 子どものころから、兄弟のなかでも歯はよかったそうだが、今も小魚は毎日欠かさずとっている。青梅、酢、氷砂糖でつくった甘酢を、煮干しなどの小魚数尾にかけ、少し味がしみたところでいただくのだそうだ。

 この15年ほど老人給食のボランティアに参加している。月に3回、調理から後片付けまでこなしていたが、近ごろは「いただくほうに回りたい」と、少し遅めの時間に行って、配膳などの手伝いにまわるようになった。そうはいっても、お正月の1月とひな祭りの3月には敷紙に絵を描いて、利用者の目を楽しませるのは大森さんの担当で、まだまだ出番は多い。

 40代のころは毎年のように家族で北アルプスを縦走しており、足腰には自信があったのだが、昨年股関節を痛めてしまった。そのため、要支援1の認定をとって週に一度リハビリ型デイサービスに通いはじめた。おかげで、最近は筋肉がついて不自由なく歩けるようになった。1日5000歩を目標に、できるだけ歩くようにしているという。

NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2020年6月号掲載