監修:水口 俊介 (東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野教授)

オーラルフレイルとは、『口腔の(オーラル)』と『フレイル(虚弱)』という2つの英単語を掛け合わせた言葉で、『口を介して起こる体の衰え』のことを意味します。
口腔機能が衰えると全身のフレイル(虚弱)につながるという考えで、老化のはじまりを示す重要なサインとして近年注目されています。オーラルフレイルをそのまま放置してしまうと、要介護状態となるリスクが上がるといわれています。

■フレイル(虚弱)とは

フレイル(虚弱)は、段階的に進んでいきます。大きく4つのフェーズに分かれており、「前フレイル期」「オーラル・フレイル期」「サルコ・ロコモ期」「フレイル期」となります。段階が上がるにつれ、症状が重症化していきます。

【1】前フレイル期

行動範囲や社会とのつながりが狭くなったり、精神的に不安になったりすることで、自身の口腔環境や管理への関心度(口腔リテラシー)が低下。その結果、歯周病、残存歯数の減少など、口腔の状態悪化がはじまります。

【2】オーラル・フレイル期

滑舌の低下、食べこぼし、噛めない食品が増えるなどが目立つようになり、食習慣が悪化してしまいます。

【3】サルコ・ロコモ期

加齢による骨格筋の量や機能が低下する加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)や、運動器症候群(ロコモティブシンドローム)などが進行。また、食の偏りから低栄養状態などにも陥ってしまいます。

【4】フレイル期

摂食嚥下障害や咀嚼機能不全など、食物を口に入れてから飲み込むまでの一連の流れに障害が起こります。運動や栄養障害にまで至ってしまう危険な段階です。介護が必要になるなど生活の質(QOL)の向上が困難になります。

水口先生のポイント解説!

厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は、2017年の統計で女性が87.26歳、男性が81.09歳といずれも過去最高となりました。すなわち、日本は過去に類を見ない超高齢社会を迎えています。

人間は大きな病気をしていなくても75歳以上になると、少しずつ自立度が落ちていき、80歳を越えると大半の人が、日常生活になにかしらの介助が必要になってしまう現状があります。この要介護に至る前の過程を「フレイル(虚弱)」といいます。フレイルにかかわってくるのは、身体機能だけでなく、オーラルフレイル(口腔機能の虚弱)もその要素の一つとして挙げられます。これらの過程は病気ではないので、栄養を取ったり、運動をしたりすることで元の状態に戻すことができます。

■フレイルの始まりは社会性の低下から

食事を独りでとる、社会性の低下など、人とのつながりが希薄になってしまうと、負の連鎖が起こりフレイルから要介護状態へドミノ倒しのように次々に虚弱が進んでしまうことを『フレイル・ドミノ』といいます。そうならないために重要なポイントとなるのが、身体や心、口腔内のささいな衰えに、敏感に気づき、その機能を取り戻すことです。フレイルを予防し、健康長寿を達成するためには、食と口腔の健康「栄養」、運動や社会活動などの「身体活動」、就労やボランティア活動など「社会参加」という3つの柱に注目して、日々の生活の見直しを心がけましょう。

水口先生のポイント解説!

社会性が低下することは、フレイルの始まりだといわれています。人とのつながりが薄くなると、口内環境に関心が減ってそのケアがおろそかになってしまいます。すると、歯や歯ぐきなどの口腔内の状態が悪くなり、入れ歯などの「義歯」の不調につながります。

そのような口腔機能が低下した状態が続くと、堅いものが食べられない→食べやすいものだけを食べる、ということがくり返されるようになり、栄養が偏ります。やがて低栄養によって筋力が落ち、介護状態になってしまいます。この悪循環が知らず知らずのうちに進行しないよう、お口のまわりの「ささいな衰え(オーラルフレイル)」から始まる症状を見逃さず、日ごろからケアすることが重要です。

■オーラルフレイルのチェック方法

自身の口腔機能の低下に早期に気づき、対策すれば、維持や回復されることができます。それには、自分の生活は客観的に見直し、「自分は大丈夫」と油断せずチェックすることがたいせつです。
1つでも当てはまる項目があれば、フレイルの兆しかもしれません。まずは外出の機会を増やし、社会的な活動を心がけましょう。
また、歯科の受診や口腔ケアの指導などを積極的に受け、口の健康に努めましょう。

■オーラルフレイルの人が抱えるリスク

前述でオーラルフレイルの危険性などはお伝えしましたが、放っておくことでその危険性はどんどん増してしまいます。
東京大学飯島教授の研究にて、介護認定のない65歳以上の高齢者2000人の口の健康状態を継続的に調査しました。
①自分の歯が20本未満
②滑舌の低下
③噛む力が弱い
④舌の力が弱い
⑤半年前と比べて硬いものが噛みにくくなった
⑥お茶や汁物でむせる

この6項目のうち、3つ以上に当てはまった人は、当てはまらなかった人と比べて、年齢や病気などその他の要因を考慮してもフレイルや介護認定を新たに受けた人、亡くなった人が約2倍多いという結果が出ています。

水口先生のポイント解説!

日本歯科医師会が『8020運動』というものを推進しています。これは、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という取り組みです。厚生労働省の調査によると、20年前は1割程度だった8020達成者が、平成28年には5割を超えた、といった報告があります。

8020を達成した人は、非達成者よりも、生活の質(QOL)が良好で社会活動の意欲もある。さらに、残存歯数が多いほど寿命が長いといった調査報告もあります。

残存歯が少なくなっても、義歯を装着して、機能する歯を増やすことによって、生存率の低下を遅らせることができるということもわかっています。しかし、ここで気をつけたいのが、入れ歯なども長い期間使用していると、かみ合わせがずれてしまうことがあります。なので、入れ歯を持っている人、持っていない人も半年に一度は歯の検診を受けることをお勧めします。

また、嚥下機能の低下が誤嚥性肺炎のリスクにつながるため、歯以外にも頬の筋肉や舌の機能維持などにも気をつけましょう。

■オーラルフレイル予防のために

オーラルフレイルを予防するためには、食べるチカラを維持することが大切です。

水口 俊介(みなくち・しゅんすけ)

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野教授 歯学博士

1983年東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業後、1987年同大学大学院歯学研究科を修了し、1989年同大学歯学部高齢者歯科学講座助手を務める。2005年に同大学大学院歯学総合研究科高齢者歯科学分野助教授、2008年に全部床義補綴学分野教授、2013年には高齢者歯科学分野教授。日本補綴歯科学会理事、老年歯科医学会常任理事、2015年には日本咀嚼学会理事長に就任。