むせたら要注意!咀嚼力・嚥下力を高める《1分のどトレ》

肺炎は、日本人の死因の第5位(『人口動態統計2020年』厚生労働省)です。
肺炎の70%以上を占めているのが、「誤嚥性肺炎」。誤嚥の自覚のない人でも、「水を一気飲みしてむせることが多くなった人は要注意」と、国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科の藤谷順子医師は話します。今回は、誤嚥性肺炎と「飲み込む力」の関係や、誤嚥性肺炎を予防するための対策などについてうかがいました。

普通に食事をしていますが、誤嚥性肺炎のリスクはありますか?

誤嚥性肺炎のリスクは、実はだれにでもあります。
特に、頻繁にむせる人は要注意。「飲みこむ力」が低下している可能性があります。
「飲み込む力」には、「咀嚼力」と「嚥下力」がありますが、それぞれが低下することによって誤嚥のリスクが高くなります。

人が食べ物を飲み込むとき、実はたくさんの器官が関わり合っていて、咀嚼された食べ物がのどを通るときには、ふだん閉じている食道の入口が開いて、気管の入り口が閉じる、ということが瞬時に行われています。

咀嚼がうまくできないと、食べ物が飲みこみにくいし、嚥下がうまくできないと、食べ物を飲み込む一連の動作がスムーズに行われなくなったり、食道の入口が十分に開かなかったりして、本来は入るべきではない気道に食べ物が入る、つまり誤嚥してしまいます。
誤嚥すると、気道が反応してむせますから、むせることが多い人は要注意というわけです。

むせる、ということは、誤嚥したものを出そうとする働きです。その喀出力が不十分になったり、高齢になって気道の感覚が鈍くなってムセが生じにくくなったりすると、気道に食べ物が入ってもそれを出すことができず、肺で雑菌などが繁殖してしまって肺炎になります。
また、誤嚥を起こす人は、嚥下機能が落ちているわけですから、食べづらかったり水分をとりづらかったりします。その結果、低栄養や脱水状態となり、体力・免疫力が低下します。そうなると、ますます肺炎を発症しやすくなってしまいます。

誤嚥を予防するために、ふだんからどのようなことに気をつければいいのでしょうか?

飲みこむ力の衰えは自覚しにくいところもありますが、いつかは衰えるという自覚を持ち、ふだんから咀嚼と嚥下の機能が衰えないように鍛えておくことが、最も直接的な予防策です。
そのためのトレーニングとして、私が推奨しているのが「1分のどトレ」です。咀嚼と嚥下の基礎力を衰えさせないことを目的に考案しました。
のどトレは、飲み込む力を以下の5つの要素に分けて、それぞれに対応したトレーニングです。

①食べ物を歯の上にのせたり噛んだりする「モグモグ力」
②食べものを口の奥に送り込む「ベロ力」
③唾液を十分に出す「ウルルン力」
④食べ物を食道に送り込む「ゴックン力」
⑤食べ物が気管に入ったときにむせて外に出す「ゴホン力」

1つのトレーニングに1分、5種類全部行っても5分程度です。全部行わなくてもいいので、毎日継続してください。短時間でも実践することが大事です。

国立国際医療研究センター病院がある新宿区では、摂食嚥下機能支援の普及啓発として「新宿ごっくんプロジェクト」を実施しています。
その一環として「新宿ごっくん体操」と「新宿ごっくん体操のうた」も紹介しています。ぜひ参考にしてください。
https://www.city.shinjuku.lg.jp/fukushi/kenko01_001089.html

若い人の場合、嚥下機能はあまり落ちていないのですが、噛む力が低下している人が多いようです。咀嚼機能を落とさないためには、ふだんから多彩な物を食べて、歯ごたえのある物を取り入れることを心がけるとよいでしょう。歯ごたえのある物を食べると、噛む力だけでなく、舌やほおの力も鍛えられ、口の中に入れたものを操作する総合力がアップします。
また、誤嚥性肺炎にならないための抵抗力をつけることも必要でしょう。そのためにはしっかり栄養をとり、全身の状態をよくすることが不可欠です。
さらに、万が一誤嚥しても、口内に雑菌が少なければ、肺炎にまで至りにくくなりますから、口の中を清潔に保つことも心がけてください。

藤谷 順子(ふじたに・じゅんこ)先生

国立国際医療研究センター病院
リハビリテーション科診療科医長
日本嚥下医学会認定 嚥下相談医

筑波大学医学専門学群卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院神経内科での研修後、リハビリテーション科医師になる。東京大学医学部附属病院、国立療養所東京病院、埼玉医科大学附属病院、東京都リハビリテーション病院、東京大学医学部附属病院などを経て、2002年から現職。医学博士。日本リハ学会専門医・指導医、日本摂食嚥下リハ学会認定士、義肢装具適合判定医、身体障害者福祉法15条指定医。著書に『ムセはじめたら、「1分のどトレ」』(世界文化社)、『テクニック図解 かむ・飲み込むが難しい人の食事』『かむ・飲み込むが難しい人のごはん』(ともに講談社)などがある。