歯の健康は、「食べる」ことだけでなく、「話す」ことなどにもつながり、生活全般にかかわります。健康な生活を送るためには、歯も健康でなければなりません。今回は、私たちが「健康な歯」を維持するためにどのようなことをすればいいのか、歯が不健康だと体にどのような悪影響を与えるのかなどについて、歯と病気、歯と寿命の関係を研究されている羽村先生にお話をうかがいました。

そもそも「健康な歯」とはどのような歯のことをいうのでしょうか?

「健康な歯」とは、しっかり機能を果たしている歯のことだと思います。歯の機能はいろいろありますが、最も重要なのは、食べた物を飲み込みやすいかたちに変える働きでしょう。

食べ物を飲み込むためには、まず前歯で噛み切る必要があります(咬断)。次に、噛み切った物を奥歯で砕いたり(粉砕)、すりつぶしたり(臼磨)して、飲み込みやすいよう整えて、最後にそれらを飲み込むのです。この一連の動作をまとめて「咀嚼」というのですが、この咀嚼をきちんと行える歯は、たいてい健康で形もきれいです。

では、「不健康な歯」は体にどのような悪影響を与えるのでしょうか?

まず、当たり前ですが咀嚼に影響が出ます。むし歯や歯周病でかたちが崩れてしまった歯は、咀嚼に必要な噛む動作を上手に行えないからです。

次に、歯は舌や唇の動きやあごの動かし方にも関係しているため、歯が不健康だと、滑舌が悪くなることもあります。せっかく話したのに、相手から何度も聞き返されると、会話を続けるのがめんどうになり、最悪の場合、周囲とコミュニケーションを取りたがらなくなってしまいます。

最後に挙げたいのが、食生活の悪化です。食物繊維の多い野菜や果物は、「健康な歯」でしっかり噛まないと飲み込めません。一方で、ご飯や麺はさほど噛まなくても飲み込めるので、炭水化物ばかりの偏った食生活になりやすいのです。昔から「早食いする人は太りやすい」といいますが、これも同じ理屈です。早食いの人は、噛まないでも飲み込める食べ物を好んで食べる傾向があります。太らないためにも、食事はバランスよく、しっかり噛んで食べるようにしてください。

「健康な歯」を維持するための秘訣はありますか?

元来、歯は一生もつようにできていました。しかし、それも平均寿命が50歳ごろまでしかなかった時代の話です。今は100歳まで生きるのも珍しくない時代ですから、何もしなければ、当然、歯は50歳を超えたあたりから、劣化しやすくなります。

ただし、きちんとメンテナンスすれば、「健康な歯」を死ぬまで維持することは十分に可能です。具体的には、①「歯をきちんと磨く」、②「フッ素入りの歯磨き剤を使う」、③「正しい食生活とよく噛むことを心がける」、④「歯科定期健診を受ける」の4つに加えて、むし歯の発生を防ぐ効果のある甘味料キシリトールの摂取を心がけるといいでしょう。

正しい食生活を送るために、食べかたで気をつけることなどはありますか?

避けたいのが、「ダラダラ食べ」です。実は、私たちの口の中は食事をとるたびに、酸性に傾いています。歯は酸に弱く、長時間酸に晒されると歯の表面のカルシウムやリンなどが溶かされて、むし歯になりやすくなります。通常であれば、唾液によって口腔内は自然に中和されるので心配はいりません。しかし、長時間ダラダラ食べ続けていると、口腔内の酸が中和される時間がなくなるのです。

食べるときは、よく噛んでしっかり食べて、歯を磨く。決まった時間以外は口に食べ物を入れない。食べることにも、そうしたメリハリが必要です。

唾液には、口腔内を中和する働き以外にも、食べ物を溶かす作用や、口腔内の悪玉菌の繁殖を抑えたり、むし歯の進行を抑えたりする作用が備わっています。よく噛んでしっかり唾液を出すことは「健康な歯」の維持にもつながります。ぜひ、今回述べた歯の知識を生活に取り込み、100歳になっても自分の歯で噛める生活を目指してください。

羽村 章(はむら・あきら)

日本歯科大学生命歯学部部長

1979年日本歯科大学卒業。1983年日本歯科大学大学院歯学研究科修了。日本歯科大学生命歯学部高齢者歯科学教授、日本歯科大学附属病院長などを経て、2013年から現職。日本老年歯科医学会副理事長、日本老年学会理事を兼任するかたわら、日本フィンランドむし歯予防研究会理事長も務める。日本歯科医学教育学会などに所属。